dream | ナノ



最近の蔵ノ介の口癖はカブリエル。ことあるごとにカブリエルがカブリエルがって正直いらいらする。女のあたしには虫の魅力はあいにく理解できないから蔵ノ介がカブリエルにそんなに夢中になる理由がわからない。でもそんなことも知らないからこうしてカブリエルを見に来てやと誘われるわけなんだけども。そしてその誘いを断れないあたしも結局は蔵ノ介に惚れ込んでいるわけであって。人のこと言える立場じゃないのはわかってるけどさ。


「どや!かわええやろ!」

「、」


リビングから出てきた猫のエクスタちゃんを抱きしめもふもふしながら部屋に入ると蔵ノ介は目を輝かせながらそう言って虫かごを見せてきた。…うん、やっぱりあたしにはカブリエルのかわいさ(?)がよくわからない。エクスタちゃんのほうがかわいく見える。ごめんね蔵ノ介、だなんて心の中で謝っているとご飯の時間やとかなんとか言って蔵ノ介はリビングへと行ってしまった。呆然としているとエクスタちゃんがあたしに擦り寄ってきた。珍しい。


「…もしかして、エクスタちゃんも寂しいの?」

「にゃあ」

「あたしも蔵ノ介がカブリエルのことばっかりで寂しいんだー…」

「にゃ?」

「あたしのことだけ見てとまでは言わないけどもう少しあたしのこと構ってほしいなぁ」


頭を優しく撫でれば気持ち良さそうに目を細めるエクスタちゃん。別にカブリエルに夢中になってもいいけど、あまりにもカブリエルばっかりだから彼女としてはやっぱり構ってもらえなくて寂しくなるし、そこまで蔵ノ介を夢中にさせるカブリエルに嫉妬もしちゃうわけで。でもそんなこと子供っぽい気がして言えなくて。そうして葛藤してることもきっと蔵ノ介は知らないんだろうなぁ。


「…嫉妬、してたん?」

「そりゃ嫉妬する、よ……?」

「ほんまに…?」

「…ん?」


どうやら口に出して独り言のようにぺらぺらと喋ってしまっていたらしい。振り向けばカブリエルの餌であろうそれを片手に蔵ノ介はドアのところに立ってこっちを見ていた。は、恥ずかしいんですけど…!!


「ご、ごめん、聞かなかったことにして!」

「ユイ、」


目を合わせるのすら恥ずかしくて俯く。でも蔵ノ介は何も言わずあたしの元に来てしゃがんだ。かと思えばちゅ、とおでこに柔らかい感触。


「!?」

「堪忍な、まさかユイが嫉妬しとったなんてなぁ」

「あ、えっと」

「けど嬉しいわ、」

「、カブトムシ相手に、子供っぽいとか、思わないの?」

「全然?」


相手が誰やっちゅうことよりユイが嫉妬してくれたことのが重要やねん。蔵ノ介はそう言ってあたしが一番好きな笑顔で笑った。





((…かっこよすぎ))(で、エクスタちゃんはそこから退こうか)(にゃー)(あ、蔵ノ介、)(自分ばっかユイにぎゅーってされてずるいんちゃう?(俺やってユイから抱きつかれること少ないのに))(にゃー)((もしかして蔵ノ介、エクスタちゃんに嫉妬してる…?))






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