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「たっかひろー」


ひょこっと顔を覗かせる可愛らしいその姿に俺だけでなく周りの目線も自然とそっちを向いた。男女問わず視線を集めている本人は気にする様子もなく、俺の姿を確認するなり軽快な足取りでこちらへ来てはやっほーと及川と山びこのように挨拶を交わした。


「相変わらずユイちゃん可愛いね」

「相変わらず及川くんイケメンだね」

「お前らのその挨拶はお決まりなの」

「だって及川さんとユイちゃんだよー?仕方ないじゃん?」

「面倒だからおうむ返ししてるだけ」

「エッ?!そうだったの?!」

「え?気づいてなかったの?」


なんたる温度差だと俺たちは笑う。及川もユイもそれぞれに人気者だというのは周知の事実だ。とは言えユイも及川もお互いを認知していたものの最初はただの同学年というだけだった。なぜいまここまで仲良くなっているかというとユイは俺の幼馴染みで、及川は俺のチームメイト。つまり俺を介してふたりは知り合った。当然、同じ流れで岩泉や松川とも同じように知り合い、今じゃ軽口叩ける間柄になってこうしてするっとユイは俺たちの輪に混ざっている。


「でもユイちゃんも罪な子だよねー」

「んー?」

「お前この間告白されてたろ」

「え、岩泉くん見てたの」

「通り掛かったんだよ」

「で?今回もフッたんだ?」

「当たり前でしょー!知ってて聞くとか松川くんもいい性格してるよね〜」


またか、と口を挟むこともなく様子を見守る。ユイが告白されたなんて話は今までに数え切れないほど聞いている。断ったという不動のオチ付きで。そして俺は変わる気配のないオチを聞くたびにいちいちホッと胸を撫で下ろす。完全にテンプレ化している流れ。


「で、お前はいつになったら」

「すとーっぷ」

「あー…、悪ィ」

「如月も健気だよな」

「純情なんですぅ」

「?なんの話」

「貴大には秘密ですぅ」


むぅ、と口を尖らせて話題をそらすのも最近よくあること。岩泉たちに話せて俺には話せないのかともやもやするのも毎度のことだが俺はいつも喉まで出かけている言葉を飲み込む。幼馴染みといってもそれまでの関係。深入りされるのはきっとユイも好まない。そう割りきってはいるけれど。


「へえ、ユイちゃんまだなんだ」

「……及川くん、今度ラーメン奢ってね」

「チャーシュー大盛り」

「餃子追加で」

「随分チームワーク良いね?!」


しかし頭では分かっていても俺一人だけがわからないまま盛り上がっているのを見るのは仲間外れにされたような気がして楽しめない、それはなにも俺に限った話ではないだろう。


「…なんか俺だけ話についていけてない気がするんですケド」

「俺らに言われても」

「如月次第だろ」


なあ?と岩泉たちはユイを見る。当のユイはあえて俺から目線を外して、どうやら俺には簡単に話せないことだというのは分かったけどさ。


「…ユイなに隠してんの」

「か、隠してるわけじゃないよ」

「いや隠してるデショ」

「貴大の察しの悪さはピカイチだよ…」

「は?」

「マッキーも罪な男〜」

「どっちもどっちだけどな」

「あー…そうだ俺、今日パスするわ。急用できた」

「じゃあ俺も〜」

「ラーメンは来週にすっか」


どっちもどっち、ってなんだそれ。顔にも出てたはずなのに俺が追及するのよりも先に岩泉たちが次々に今日の予定を辞退する。わざわざオフの今日を選んでまで行く用事でもなかったけど、あっという間に予定を解消されるのもやはり複雑な気持ちがあるもので、俺が文句を言おうとすればそんなのお見通しだと言わんばかりにスススッと3人はさすがの団結力で席を立っては教室から出ていく。そして残されたのは俺とユイ。3人にぶつけられなくなった疑問や感情を俺はユイに投げ掛ける。


「全っ然わかんないんだけど、なにあれ」

「……」

「ユイ?」

「…今日、暇になったの?」

「あいつらパスって言ってるから、まあ」

「……ふーん」

「なに、ユイも暇なの」

「…………うん」

「へえ、珍しいじゃん」

「……駅前のケーキ、食べに行くの付き合ってほしいんだけど」

「友達と行く〜って言ってなかった?」

「っい、いいの!貴大と行くの!」

「?」

「き、今日は、貴大とがいい……」


あ、なるほど。俺から目線を逸らしてぎりぎり聞こえる声量で、頬を赤らめて恥ずかしそうに言うその様子に、ピンときてしまった。ユイが誰の告白も受け入れないことからなにから、理由は俺にもあるということらしい。そりゃあいつらには話せて俺には話せないわけだ。納得すると先ほどまでの複雑な気持ちはどこへやら。優越感が沸き上がって口角が上がりそうになるのを必死に抑える。


「じゃ、今日は俺が奢ってやるよ」

「え」

「ユイの勇気を称えて、な」

「!!?」


今の今まで余裕なんてこれっぽっちも無かったのにかっこつけてユイの頭を乱雑に撫でてみればユイが何事かと取り乱す。が、しかしそこはさすが幼馴染みと言うことなのだろうか、どうやら俺が気づいたということに勘づいたらしい。みるみるうちに赤面していき慌てふためくもんだから、ユイを可愛いと思う気持ちに拍車がかかる。まあ無理もない話だ、ずっと好きな子と両想いだって分かっちゃったんだし。少しくらい浮かれても許されるだろう。


「ゆ、勇気って、な、なんで、」

「ここで言っていいことなんだ?」

「〜っ!!」


貴大の意地悪!と顔を真っ赤にしたまま教室へ戻っていってしまったユイだったが、放課後にはホームルームが先に終わったユイが迎えに来てふたりでケーキを食べに行った。終始ユイの耳が赤いのを見た俺は、今までなにも気づかなかった自分の鈍感さに笑うと同時に、どうしようもないくらいの優越感とユイへの愛しさがこみ上げてきたのだった。





翌日、幼馴染み改め恋人となった俺たちの様子に気づいた及川がユイをからかったのだが、度を過ぎた照れ隠しといったところだろう、ユイが顔を真っ赤にして手に持っていたパンを及川の顔に投げつけクリーンヒット。ユイのキャパは超えるといろいろ危ないんだなと学ぶ俺であった。






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