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「ユイ、最近マフラーの結び目凝ってるデショ」

「!」

「…可愛い」

「!!!」


素直にそう言えば目をきらきらと輝かせて喜ぶのは俺が好きで仕方のない彼女。そして彼女もまた俺のことが好きで俺が褒めるとこうしてぱあっと表情を明るくしては照れながらもふふふっと嬉しそうに笑う。オフの月曜日は必ずふたりで一緒に帰るのが俺たちの約束だ。他の日も帰れるときは帰っているけどクラスが違えばなかなか一緒にいられる時間は少ない。だからと言うべきかユイの些細な変化を見過ごしたくなくて、言いたいことも言い逃したくないと思う。そんな中でマフラーをするようになったユイは毎回巻き方や結び方を変えていて、もこもこしている感じがユイの可愛さをより引き立てているなとずっと思ってて、ようやく言えた。ただ繋いでいる手をゆらゆら揺らしながらにこにこと笑う彼女をもう少し見ていたくて話を少し掘り下げた、のは選択ミスだったのかもしれない。


「こういうのって自分で調べてるの?それとも誰かに聞くの?」

「及川」

「は?」

「及川」

「いや、え?は?及川?なんで?」

「及川にマフラーの結びかたがマンネリ化してるって言ったら教えてくれた」


きらきらしたその表情とは反対に俺の心中は穏やかさを失う。いやいや。ユイと及川は幼馴染みではないもののクラスがずっと同じで仲が良いのも分かっているし、お互いに恋情がないのも分かりきっていることだ。だけどやはり他の男と仲が良すぎるのはすんなりと受け入れがたいものがある。というか遠回しに及川を褒めたようで余計にもやもやする。そんなことを思ったところで自分が関わることに疎いユイは当然俺の変化にも気づかずに目を輝かせたまま言葉を続ける。


「及川すごいんだよ、わたしより器用なの」

「ふーん」

「だから手直しもしてもらうの」

「……及川に?」

「うん、難しいのとか、結び目が後ろになるのとかは自分でよく分からないから」

「…ユイ」

「へ」

「それなら普通のでいいんだケド」

「えっ、えっ、」


名前を呼ぶ俺の声のトーンが少し落ちたのに気づいたユイは話を止め、俺にされるがままにマフラーをほどかれる。


「…やっぱり可愛くなかった?」

「そうじゃなくて」


眉を下げて俺の顔色をうかがうユイは俺がどうしてユイのマフラーを巻き直したか、想像がつかないらしい。まあ、こんなことで嫉妬するのも心が狭いかもしれないケド。


「お互いそういうんじゃなくても、気安く触らせるのは妬くからやめてってこと」

「え!貴大が!妬くの!」

「ハイ、そこ嬉しそうにしない」

「だって!及川ごときに!」

「ごとき」

「わたしが人類一かっこいいと思うのは貴大だから、及川なんていくらイケメンと騒ぎ立てられようとわたしの中では貴大の足元にも及ばない」

「…ユイのそういうトコ、岩泉に負けず劣らず男前だよネ」

「え、わたし女版岩泉なの?」

「いやそこまでいったらユイのこと好きになってないし」

「!」


嫉妬を疎ましく感じるどころか大歓迎なユイには敵わないなと思っているところに、不意打ちで今みたいに嬉しいことを真剣な顔で言われちゃ照れ隠しも上手くいかないわけで。今日のユイは珍しくそれに気づいてしまったらしく目を丸くしたもののすぐに表情を緩ませた。それを見てユイの方が上をいくような感覚に悔しい気持ちもあればデレデレなその様子が可愛いと思う気持ちもあって葛藤が始まる。複雑な心境になった俺の横でユイは変わらず顔を緩ませながら笑っていた。


「ふふっうふふっ」

「…随分上機嫌じゃん」

「ふふふ!貴大すきー!」


そう言いながら満面の笑みを浮かべるユイはもう及川とマフラーの話しないね!って嬉しそうに言うもんだから、ああ次からは俺が巻いてあげることにしようと思うのだった。


可愛さは時にですね


「あれ、ユイ今日はマフラーいいの?」

「貴大が巻いてくれるからいいの!」

「え!?なにそれ及川さんはお役御免ってこと?!」

「うん!残念でした!うふふ!」


後日。そんなやり取りをしたと言う及川からマッキーのバカ!このリア充!とメッセージが送られてきたのだった。






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