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高校生





「光くん、久しぶり」


どの部も今日は部活がなくて、先輩と呼べる人が一人も居なくなってだいぶ経つなんて話を、違う部のクラスメイトたちと話しながら校門を抜けようとすればユイさんが校門に背を預けて立っていた。ちわっす、と隣のやつらが挨拶すればユイさんもまた挨拶を返す。柔らかく笑う様が大人っぽくなっていて、ああ彼女は大学生になってしまったんだなと思った。


「…ひとりすか」

「なになにー、私ひとりじゃ不満?」

「…」

「近くまで来たから寄ったのに冷たーい」


けらけら笑うところは変わらずで、柄にもなく胸がときめいた。ユイさんは俺の心中などお構いなしにクラスメイトたちに今日は光くん借りていくねーとさらりと告げると俺の腕を引いて、行こうと思っていた方角とは逆へ連れられる。


「…どうすか、大学」

「ん?学びたいこと学べて楽しいよ」

「真面目に受けとるんすね」

「おじいちゃん先生だと寝ちゃうけどね」

「前言撤回で」

「あれは光くんも寝ると思う」

「まあ寝るやろうけど」

「ほらー」


こんな他愛のないやり取りをするのはいつ振りだろう、とぼんやり思いながらユイさんを見る。ユイさんはテニス部のマネージャーで、当時からこうしてふたり並んで帰ったりすることもあった。中学の頃より少しは丸くなったと自覚しているがそれでも可愛くない後輩であっただろうに、高校で出会ったユイさんは高校での先輩らの中でも一番俺を可愛がってくれていたような気がしていて俺もまたユイさんに一番気を許していた。


「光くんは相変わらずだね」

「…変わりましたよ」

「そ?あ、でも変わったかも」

「は、」

「頼もしくなった感じ」

「…」

「先輩としては嬉しいような寂しいような」


複雑だと言ってへらりと笑うユイさんも少し変わったと思った。垢抜けたというほど高校生のユイさんが野暮ったい印象だったわけではないが、大学生になったことで彼女になにかあったのだろう。高校生の俺じゃ手の届かない存在になってしまったような気さえする。年の差というのはたった1つであっても恐ろしいものらしい。


「にしても光くんはモテるねえ」

「なんすか、急に」

「さっきすれ違った子がこの間財前くんにフラレちゃってとかなんとか言ってたよ」

「…」

「はい面倒くさがらなーい」

「せやかて」

「…まだ好き?」


なんて聞き方失礼かな。俺を見上げて言うユイさん。そう、俺はこの人がずっと好きだ。そしてユイさんが来たのは偶然なのか、1年前の今日に俺は告白をして、振られている。それでも我ながら諦めの悪い話だが、彼女が卒業してから今日までまともに連絡を取らなかったくらい距離があったにも関わらず、未だにその想いを断ち切ることは出来ないまま。だからといって素直にはいそうですと頷かない天の邪鬼な俺。


「…仮に好きや言うたらどないするんすか」

「付き合おっかって言うけど」

「は?」

「好きだよ」

「なん、」

「本当は一目惚れしてました」


いろいろな感情を乗せながら笑ったユイさんを、俺は思わず抱き締めた。自分の予想の斜め上を行く返答だけでなく、告白までされては我慢ができなかったし、らしくないと笑われそうだけどユイさんのその笑みが愛しくて誰にも見せたくないと独占欲に駆られてしまったのだ。


「ずっと好きでいてくれてありがとね」

「…ほんまに?」

「んー?疑い深いの良くないぞー?」

「そら一度断られとるし」

「その節は申し訳ありませんでした」

「…夢やないんすね」

「うん、現実だよ」


光くんと違ってわたしは甘いから、浮かれて自分も光くんのことも最終的に不幸にしてしまいそうで恐かった。自分勝手でごめんね。ユイさんはそう言うと俺の頬にキスをひとつ落として俺から離れ、はにかんだ。なんだかユイさんの方が上手な感じがして悔しくなった俺はその唇に自分のそれを重ね、真っ赤になるユイさんを見て笑う。


「き、今日来たのもそういうことだからね!」

「偶々やと思っとりました」

「そう思うと思った!」

「…」

「ふふん!あ、ねえ、これから暇?」

「この状況で忙しい思います?」

「うふふ」

「…どこ行きたいんすか」

「あのねー」


つらつらとユイさんの口から出てくる場所はふたりで時間潰しに使ったり、部活帰りによく立ち寄ったりといった場所ばかりで、嬉しさと照れくささとが拮抗する。ユイさんもまた同じらしく、その表情が滅多に見ないのではというほど可愛くて、俺はこの人を好きになってよかったなと心のなかでひっそりと思うのだった。


愛しきデジャヴ






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