dream | ナノ



「ユウくん!」

「うっさい」

「それ小道具?」

「気散るから黙れや」

「本当にユウくん器用だね!」

「人の話聞けや。死なすど」

「そういう口悪いとこも好き!ユウくんに殺されるなら死んでもいいよわたし!」


ああ、本当に誰かこいつを、この如月ユイという人間をどうにかしてくれないだろうか。俺はこいつが鬱陶しくて仕方がない。自意識過剰とかではなく、俺のことがどれだけ好きなのだろうかと心の底から不思議でならないほどにこいつは俺のことが好きだ。毎日懲りずに好き好き言ってきては、俺が苛ついて死なすどと他なら後ずさるようなトーンで言ったとしてもへらへら笑って俺の苛立ちなど気にも留めずに猛アタックをしてくる。中学に入ってからずっとこの調子だ。最初はそのうち慣れるだろうとか逆に如月が飽きて次第になくなるだろうなどと思っていたがそんな気配は残念ながらこれっぽっちもない。それにしても一体誰だ3年間こいつと同じクラスにしたのは。気が済むまで殴らせてほしい。今日は珍しくミーティングもない完全なオフで次のお笑いライブの準備を進める良いチャンスだと思ったら家庭科室は他の部活が使っているから空いていないし放課後なら家でやるよりは誘惑が少ないから集中出来るかと思って教室でやっていれば帰ったと思っていた如月がまだ帰ってなくてこの有り様だし、本当にその分の苛立ちも含めてクラス編成に携わった教師たちを殴らせてほしい。


「ユウくん、」

「気安く呼ぶな、きしょい」

「糸出てるよ」

「は?」

「ほらココ」


しかしなんだかんだ言っても目の前のこいつを実際どうにもしきれていないのが事実。ただ、それにはいくつか理由かあった。たとえば今のように、些細なことにこいつはすぐ気づく。いつもいつも邪魔しかしないかと思えば突然今のようにほんの少しのことでなかなか気づきにくい、されど直すべきところを指摘してくる。ここで意外としっかり見ているんだなと感心しても絶対に誉めはしない。誉めたら調子に乗ってますますうざったくなってしまう。


「えへへ」

「にやつくな」

「だって嬉しいもん、ほんのちょっとだけどユウくんの役に立てて」

「なんも役に立たんわ」

「でもわたしが言わなかったら糸出たまんまだったよ?」


それにしてもなんでこいつはこんなにポジティブなんだ。俺がどんなに罵っても冷たくあしらっても前向きに受け取ったかと思うとにこにこいつも笑って、そして俺のそばに居る。自分でいうのも複雑ではあるが俺と居ても楽しくなれるとは思えないのだが。よくわからない。小春とのお笑いライブを如月がそれこそ最初の頃からとても気に入ってくれているのは知っているが、お笑いライブによく見に来ていても普通はここまで普段から俺と居たがらない。いや、如月の他に居たら困るから居なくていいんだけども。


「あほか、後で見たとき分かるわ」

「あ、そっか、小春ちゃんも見るもんね」

「…気安く小春の名前出すなや」


そして小春の名前を口にするときの如月の様子もそうだ。一瞬、ほんの一瞬悲しそうにするのを俺はいつも見逃さない。嫉妬でもしてるのだろうか、そこもいまいちわからない。だがその一瞬に気づけるのに理由がわからないことに何故だかもやもやして、余計に冷たくしてしまう。そうして思わされる、俺は如月に調子を狂わされている。


「そうだね、小春ちゃんはユウくんの大切な人だもんね!」

「せや、如月みたいな貧乳と一緒にすなあほ!」

「な、ひ、貧乳…!?も、もももしかしてユウくんは巨乳が好み…!?」

「は?いや、別に、」

「わ、わたし頑張るね!」

「…はあ?」

「ユウくんが巨乳好きならわたしも胸大きくなるように頑張る!」

「いや、ちょ、」

「小春ちゃんなら胸おっきくする方法知ってるかな…?!」

「お前、ほんまに、」

「わたし小春ちゃんのとこに行ってくるね!」


本当に如月は一体なんなんだ、あまりにも読めない。きっとモノマネをやったとしてもあいつのだけは完成できないだろうと思うくらい、俺には未知の生き物だ。ちなみに今のやり取りを訂正すると俺は謙也と違ってそこまで巨乳が好きなわけでもない。というか貧乳と言ってもまだまだ中学生、今から巨乳でどうするんだ。それに如月だって貧乳とは言ったが実際はそんなに言うほどでは…って違う違う。そういうことではないし第一小春に聞いても……、は?小春?小春に聞く?


「おい待てや貧乳コラァァァア!!」


小春に変な誤解でもされたらたまらない。その可能性に気づくと俺は作業すべてを放り出して如月のあとを追った。





「あっ小春ちゃん!胸が大きくなるにはどうすればいいの!?」

「え?いきなりどないしてん?」

「だってユウくんわたしに貧乳言うから!きっとユウくんは巨乳好きなんだよ!」

「あー、それは本心やないから大丈夫やて」

「…確かに言われてみれば本音じゃなかったかも」

「ん?」

「たぶんあれ不可解なことにもやもやして八つ当たりって時の雰囲気だから…、なんかあったのかなー?」

「…ユイちゃんてほんまユウくんのこと見とるんやね」

「ほんと?小春ちゃんにそう言われると嬉しいなー!」






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