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「うぐぅ……」


思わず出てしまった声にどうしたの?と雪絵が尋ねてくる。隣のかおりもまた不思議そうな顔でわたしを見ていて、筋肉痛…と訴えれば口を揃えて珍しいとの返答。分かる、わたし自身久しぶりの筋肉痛で辛い。


「体育で張り切りすぎた…」

「あ〜、いまバレーだもんね」

「ユイのことだから準備から超動き回ってそう」

「大正解なかおりにはあとで褒美をさずけよう」

「じゃあアイスね」

「あたしハーゲンダッツ食べた〜い」

「雪絵ちゃっかりし過ぎ!」


ケラケラ笑いながら雪絵がお礼に物運ぶのはやってあげると言ってくれた。お財布へのダメージがイタイ……けど背に腹は変えられないと割り切ろう。ここでやるからと突っぱねて後々迷惑をかけてはどうにもならない。


「あ、でも木兎のアレは代われないからね」

「うわあああそうだった…」

「がんばー」

「拗ねないように回避しないといけないのか…」

「ハードル高くない?」

「でもわたしはわたしの筋肉を助けたい」

「じゃあ自分の身は自分で守ってね」

「ぐっ…」

「あたしらが下手に刺激してしょぼくれモードにしたくないし」


ねえ?と雪絵とかおりが顔を合わせて共通認識であることを確かめる。かおりの言う木兎のアレ、とは俗に言うハイタッチである。何故かテンションがあがるとわたしにだけハイタッチを求めてくる。わたしも普段ならヘーイと軽くノッてそのハイタッチに応じるのだが何分あの勢いだ。なかなか……というかだいぶ力強い。そしてあの力強さは今のわたしには強敵だ。効果抜群の大ダメージだ。なんとしてでも避けたい、避けたいけど雪絵の言う通り木兎のしょぼくれスイッチを押さないように穏便にすませなければいけないのもなかなか難易度が高い。


「ヘイヘイヘェーーーイ!!」


そうこう言っているうちに練習は始まってしまった。今のところ順調……というより心なしかいつもより好調な木兎はストレートもクロスも上手く決めている。なにか良いことでもあったのだろうかと見ていると振り返った木兎と目があった。あ、やばい、


「ユイーっ!!」


両手をあげながらハイタッチを求め木兎がこっちに向かってきた。どうしようどう切り抜けようといつもと違うことに気がついたのか疑問符を浮かべる木兎。


「ユイどうした?腹いてーのか?」

「や、あの…」

「ん?」

「あの、筋肉痛でして、今日、その、ハイタッチ…出来ない」

「………」


シン……と木兎だけでなくみんなが静まる。やばい、思わず正直に言ってしまった。赤葦のこっちを見る目が若干怖い。いやそりゃそうだよね、わたしだっていまちょっと自分を叱咤したい。絶好調なところに水を差したんだからこれは木兎がしょぼくれモードになっても仕方ないしそうなったときに一番苦労かけるのは赤葦なのだ。あとでハーゲンダッツ奢るからほんとごめん許して赤葦あの強烈なハイタッチをここでしてしまったら明日もハーゲンダッツの刑になりそうなんだ…!


「んー、じゃあ」

「え?」


あれ?しょ、しょぼくれモードじゃない……?てっきりしょぼくれモードに入ると思っていたわたしの前で少し前屈みになる木兎。予想外の展開に戸惑っていると木兎の手がわたしの手を掴み自らの頭の方へ導く。そして半強制的にそのミミズクヘッドをぽんぽんと軽く撫でさせられる。


「今日はハイタッチの代わりにこれな!」


自分で半強制的にやったというのにも関わらずわっはっはとやたら満足げな様子で木兎はいつも通りコートに戻っていった。え、な、なに今の…?どういうこと……???







「木兎はとにかくユイに誉められたいわけなのね」

「ほんとユイのこと大好きだよね」

「それでも気づいてないユイの鈍感さたるや…」






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