dream | ナノ
「はろはろ遊児クーン」
「あ!!ユイじゃん!!!」
じわじわと夏の到来を感じさせる日のとある昼下がり、体育館からひょっこり顔を出せば名前を読んだ相手だけではなく丈春くんたちも一緒に振り返って手を振ってくれた。少し遠くにいた先生と華さんにも軽く会釈して体育館へ入る。そしてわたしの手にあるそれを見るとみんなのテンションが一気にあがった。
「差し入れのアイスだーーーッ!!」
「フゥーーーーッ!!!」
「いつもありがとね、ユイちゃん」
「いやいやなんてことないですよ〜」
よーし一旦休憩にするぞー、と先生が呼び掛けるやいなや遊児くんたちが真っ先にわたしに群がる。そんな彼らの前に手をビッと出せばまた彼らもピタッと止まる。
「まずは先生と先輩から!」
「ちぇー」
「二人が選んでる間に順番決めておけばいいじゃん」
「よっしゃ今日は負けねえぞ!」
「照島この間じゃんけん全敗だったけどな!」
「うっせー!」
そうしてやたらとテンションの高いじゃんけんを尻目に先生と華さんにどうぞどうぞと差し出す。なんてことはない普通のやり取り。
「如月は他の部活にもこうやって差し入れしてるのか?」
「え?男バレだけですよー?」
「そうか、しかしこういう日にアイスはありがたいな」
「あはは、ただわたしが練習を合法的に見たいだけなんですけどねー」
「マネージャーやってくれたら練習も毎日見られるのに」
そう言って華さんが眉を下げて笑うと先生もつられて同じように笑い、わたしはしゃくしゃくとアイスを食べ始める。そう、わたしはただの帰宅部だ。最初は遊児が心配で様子見という口実だったのだが、何度もその試合を見ているうちにバレーボールの面白さに引き込まれて今に至る。と同時に後釜探しに苦労している華さんには何度もマネージャーに勧誘されているのだが心苦しさを抱えながら断っていた。わたしはどちらかと言えば遊児側の人間で華さんみたいに彼らをうまくコントロールすることはできない。中学からの付き合いである遊児なら多少は…っていうレベルだと思う。それにわたし自身ゆるい人間だから、マネージャーより気の向くままに差し入れするくらいがきっとちょうどいい。
「三咲の後釜はなかなか見つからないな」
「ユイちゃんバレー解ってるし適任だと思うんですけどね」
「華さんくらいしっかりした人間だったら考えてましたよー」
「如月は男だったらあいつらに混ざってそうだもんな」
「あ、それ自分でもたまに思います」
「それでも諦めきれないなあ…」
「華さんはわたしを買いかぶり過ぎでは」
「そう?でも、」
袋からアイスを取り出した華さんがじゃんけんに勝ったらしい遊児を見てぽつりと言う。
「みんなそうだけど特に照島くん、ユイちゃんが来るとやる気増すしいい刺激だと思うんだけど」
あれ?華さんのこの口振りはもしかして。わたしはアイスを食べ始めた華さんにおそるおそる、言ってみた。
「…わたし、」
「ん?」
「……これでも遊児の彼女デス」
「えッ!?」
「は!?」
どうやら誰も知らなかったらしい事実は華さんと先生だけでなく遊児を除く全員を驚かせた。
残酷なシンパシー
「てっ、照島お前いつの間に……!?」
「中学から一緒って言ったべ」
「一緒ってそういう意味かよ!!!」
「ユイちゃんコイツで本当に良いの?!」
「えー…和馬くんがそれ言う?」
「つーか、ピアス似てんなって思ってたけどそういうことか!」
「ゲッまじだ!」
「はいはーい、煩い人にはアイスあげませーん」