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「ユイ先輩!」


卒業したんだなあ、とぼんやり空を眺めていればテニス部のみんなとのお別れが済んだのだろう。一番仲が良かった彼がわたしの名前を呼んだ。


「…赤也」

「探したッスよ」

「それは、ごめん」


苦笑いを浮かべれば彼もまた同じそれを浮かべてほんとッスよと言ってみせた。そうして気づく。


「赤也、乱暴に目元拭いたでしょ」

「、」


乱暴にこすったのだと見受けられるそこに優しく手を添えては慈しむように撫でた。目の前の彼はぴくりと体を震わせた後、わたしの手に自分のそれを添える。男の子特有の、骨張っている手はひどく暖かいと感じた。


「…先輩、泣かなかったんスね」

「……うん」

「寂しく、ないんスか」

「…、赤也は」

「…寂しいに決まってるじゃないッスか」


ぐす、という音が聞こえたかと思えば、わたしの手に落ちる雫が1つ。きゅう、と胸が締め付けられた。本当に赤也はテニス部のみんなが大好きで、それははっきりと言葉にされてなくても、話を聞くだけで伝わるものだった。だから、みんなの前ではもっと、もっと泣いたんだろうなと、思った。そして心の奥で、醜い欲がわめく。わたしも、目の前の彼にそれくらい想われたいと、黒いそれが言う。だけど必死に押し込める。こんなときに彼に言うべきことではない。困らせるようなことは、言いたくない。彼の負担になど、なりたくない。


「テニス部のみんなだって、赤也のこと大好きだもん。会いに来てくれるよ」

「………」

「…なんて、気休めしか言えなくてごめんね」

「…先輩は」

「ん?」

「俺と会えなくなるの、寂しくないんスか」

「…、……」


体が、思わず強張ってしまった。寂しくないはずが、ない。赤也が居ない学校生活なんて、考えたくもないくらいだ。毎日ではなかったけれど、それでも赤也と頻繁に会っていたあの日々が1年は確実に来ないだなんて、そんなの、つまらない。つまらなすぎる。だけど。


「………、」

「俺は、寂しい」

「!、」

「ユイ先輩と会えないの、寂しい」

「あか、や…」

「先輩が居ない学校なんて、つまんねぇ」

「っ」

「…先輩」


少ししか差のない身長のわたしたちだから、視線が真っ直ぐぶつかり合う。見下ろすでも見上げるでもなく、真っ直ぐ、対等にぶつかる。初めて、真剣な目で見つめられて、鼓動が早まる。


「わたし、は、」

「………」

「赤也と、会えない生活なんて、想像したくない」

「、」

「寂しくないわけ、ないよ…」

「先輩…」

「寂しすぎるよ、1年も違う校舎なんて、そんなの、嫌だ」

「………」


赤也が目尻を拭いながら優しく、だけど寂しさは漂わせたまま微笑んで、そこで自分が泣いてることに気づいた。ぽろぽろ、止めどなく溢れる。


「先輩」


そして苦しくないけど、でも強く抱き締められた。赤也の匂いが鼻を掠める。離れたくなくて、背中に手を回した。


「先輩、好き」

「え、?」

「ずっと前から、ずっと好きだった」

「っ……」

「だから、本当に、寂しい」

「あ、あかや…っ」

「でも、先輩泣かないから、そうでもないのかなって、不安だった」


だけど泣いたから、良かった。なんてそんなことを言って赤也はわたしの額に自分の額をこつんと合わせる。


「…好きッス」

「、」

「先輩は、俺のこと好き?」

「…っ好き、大好き…!」

「…すっげー、嬉しい」


そうして見せてくれた笑顔は、わたしが大好きな笑顔だった。












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