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雅治はよく携帯を見ている。なにに依存しているのか分からないけど頻繁に携帯を見る。ただそれはわたしが居ないところで、という話であって、わたしと居るときはほとんど携帯を見ない。


「雅治」

「なんじゃ?」

「わたしと居ないときよく携帯見てる、って聞いたんだけど」

「は、」


わたしと居れば携帯はほとんど見ないのだから、わたしからすればその話はにわかに信じがたいもので。だからと言って本人に直接聞くことではなかったけど、後先考えずに聞いてしまった。当の本人もまたわたしからそんな話題が出てくるとは思わなかったのであろう、わずかに目が開かれた。


「いきなりどうしたんじゃ」

「特にどうもしないけど、そういう話聞いたから 気になって」

「…ほう」

「でもわたしと居るときはそんなことないよね?」

「さすがに彼女より携帯を優先するほどではないぜよ」


断言はしなかった。しなかったけど、今のは肯定的な発言だ。相手によっては携帯を優先する、と遠回しな表現。言った本人は気づいているのかいないのか、そこまでは分かりかねるけど。


「なんでそんなによく見てるの?」

「、」


特に誰から聞かれたわけでもなく、ただわたし自身の素朴な疑問をぶつけてみると、雅治は言葉をつまらせた。変なことを聞いたわけでもなく、話の流れからは出てきてもおかしくない質問のはずなのに、雅治からするとそうではないようだ。なにか聞いてほしくはなかったような、そんな雰囲気。


「それ、は」

「うん」

「……」

「?」

「………秘密じゃ」

「えーっ」

「ユイは知らなくていいんじゃ」


かわされた上に、付け加えられたその言葉に少しだけカチンとくる。真意は分からない、照れ隠しで言ったのかもしれない。だけどどこか突き放すような言い方ともとれるそれに、同時に傷つきもした。


「……えい」

「!ユイ、」


だから仕返しのような気持ちで雅治の上着のポケットにおもむろに手を突っ込む。これだけの付き合いならどこに携帯があるかくらい知っている。勿論わたしがこんな行動に出るとは予想していなかった雅治は驚き、反応が遅れる。その一瞬の隙がわたしにとっては味方だった。


「ふふん」

「返すぜよ」

「やだ」

「悪趣味じゃな」

「雅治が意地悪言うのが悪い」

「意地悪なんて言ってないきに」

「雅治はそう思ってなくてもわたしがそう思った」

「……謝るから、返しんしゃい」


なんだろう、どういう理由があるのかよっぽど携帯を見られたくないらしい。見るつもりで取ったわけではなかったけど、そこまで食い下がられると気になってしまう。と、不意に携帯のボタンを押してしまった。パッと画面が明るくなる。反射的に画面に視線を落として、固まった。


「……………へ?」


わたしの間抜けな声に雅治は片手で顔を隠しながらため息をついた。


「あの、ま、雅治…」

「…ユイにだけは秘密にしておきたかったんじゃがなあ……」


ボソッと雅治が呟く。そこにうつっていたのはわたしだった。寝てる。寝てる上によくよく見れば、上を着ていないのが分かる。つまり、事後、というやつで。そう思うと自分の顔が熱くなっていくのが分かった。


「な、え、なん、」

「……可愛かったから、撮った」

「いや、だからって、あの、」

「………変える」

「え」

「変えるから、それでええじゃろ」


ヒョイ、とたやすくわたしの手からそれを取り返す雅治の顔は真っ赤だった。とそこで思い浮かぶ。


「もしかして、それが、その、よく携帯見てる理由…?」

「っ、」


びく、と雅治の肩が震えた。あ、もしかしなくても、図星だ。




そして嬉しさと恥ずかしさとでいっぱいいっぱいになったわたしは、気づけば待ち受けそのままでもいいから!と雅治に言い捨てて走っていた。






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