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今日から新しい環境。わたしは今学期から違う土地で右も左もわからない状況で、転校生というレッテルをぶらさげて生活を始める。親の転勤で引っ越しが決まったと聞かされたときはまたかと思った。いわゆる転勤族。転校は初めてじゃない、今までにも何度もしてきている。今回は少し長く留まれそうだとは言われた。ふうん、と聞き流しながらわたしは耳に触れる。増やそうかな、とぽんやり思った。


「……ッ」


無機質な音と鋭い痛み。そして増える傷。なんのためかは、自分でもわからない。大人にはわからない学校という特別な環境の中での人間関係への反抗、といえばいいのだろうか。同じ生き物なのにその土地柄でずいぶん違うそれへの対応に、疲れはあった。でもピアスの穴が開いているのを見れば、見てくれで判断してうわべだけの付き合いをする人たちは自然と距離を置いてくれていた。言ってしまえば利己的なひとたちを避けたかったわたしはそれしか方法を知らなかった。


「如月ユイです」


そうして迎えた転校初日。最初は転校生だと興味津々で近づいてきた人たちもわたしと話してそれに気づくなり一人また一人と距離を置き始める。それでいい、それが気楽でいい。わたしは少しでも面倒事からは距離を置きたい。


「よう見れば俺と同じくらいあけとるんやな」


ただ、例外がいた。隣の席になった財前光というこのクラスメイトは唯一この学年でテニス部レギュラーを勝ち取っており、尚且つルックスも成績も良い。つまりモテる。事前知識がなかった初日からそのピアスの穴の数を見て(人のことを言えた立場じゃないのは重々分かっているけど)直感的に関わりたくないと思った。それとは逆に彼はわたしに興味を持ってしまったようで、多くはないものの毎日話し掛けられる。彼が人気者であるのもあってどう出ればいいか分からないわたしは可もなく不可もなくといった具合に対応するしかなかった。


「如月、俺のこと面倒って思っとるやろ」

「は……」


それが続いたある日、彼は唐突にわたしにそう言った。驚きを隠せずに彼を見るとなぜか楽しそうにしている。まるで暇潰しのおもちゃを見つけたような、そんな雰囲気を感じた。


「残念やったな」

「な、」

「日に日に興味が増すんやわ」

「?!」

「せやからあんたが避けとる面倒事に、巻き込んだる」

「っ、冗談じゃないんだけど」

「無論冗談やないで、本気や」

「……っ」


あまり大きく表情を崩さない彼が珍しく楽しそうに、しかしまるで獲物をとらえたように、笑った。そうして布告される。


「必ずあんたを惚れさせたるからな」


どうしたら、どうすれば、なんて考えても無駄だとすぐにわかった。もうわたしの学生生活から平穏という文字は消え去り、彼との攻防が始まった。


ネクタイの魔物







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