dream | ナノ
最近音楽プレイヤーの曲数が知らない間に増えている。
「また勝手に曲入れたでしょ」
犯人に入れた覚えのない曲を見せながら言うと彼はさらりと悪びれもなく肯定した。
「好きそうやったから」
「いや好きだけど」
せやろ、と僅かにドヤ顔で返すのは幼馴染みで家が隣の光。家族ぐるみの付き合いでお互いの部屋を行き来するのは日常茶飯事なのだが、ここ最近は光の部屋でゲームをよくさせてもらっている。そして大体その翌日に音楽プレイヤーの中に見知らぬ曲が入っていることに気づく。そのたびに聞くと好きそうな曲だからと目の前の彼は言うのだ。確かにわたしの好きな曲調なので消すことはしないのだけども。
「毎度毎度思うけどいつの間に入れてんの」
「お前が他のことに夢中になっとる間に」
「まじか」
「面白いくらいに気づかへんよな」
「返す言葉がないわ」
確かにわたしがゲームしてたり漫画を読み漁っている間にも光はパソコンをよくいじっては居たけど。その時に自分の音楽プレイヤーに勝手に曲を入れられているなど誰も想像しないだろう。そもそも今まで曲を入れられていなかったときもパソコンをいじっていたから今更パソコンをいじっていることになにも疑問など感じなかった。
「容量まだまだあるんやし2、3曲増えたからって支障あらへんのとちゃうんか」
「いやもう2、3曲どころじゃないんですけど」
「せやかて毎度毎度俺が曲入れたって確認しかせえへんし」
言われてみれば光が入れたという確認だけで済ませていた。そしてまたその曲を消してもいなかった(消すのが面倒なだけだったけど)。
「入れんなって言うんやったらそうするで」
「うっ」
そう言われると不思議と入れるなと言いにくかった。確かに容量に余裕はまだまだあるし、光の選曲は見事にわたしの好みに沿っているのだ。実のところ曲を入れないように言う理由が見当たらない。
「……」
「どないしてん」
「入れるなって言う理由がない…」
「せやったらまた入れたるわ」
してやったり、と言わんばかりに光は微笑んだ。光の思い通りになったかと思うといささか悔しいが拒む理由がないのだから仕方ない。それにしても気になることがひとつ。
「でもなんでいきなり曲入れるようになったの?」
聞くと光は文字通りきょとんとした。それから小さなため息がもれる。先ほどまでの機嫌のよさはどこへやら。一転して機嫌を損ねる光。
「なあ」
「ん?」
「俺が入れた曲ってなに題材にしたやつや?」
「え?なんで?」
「ええから」
「えっと、ラブソング?」
「せやな」
「それがどうかしたの?」
はあぁ、と先ほどより大きなため息をつく光。わたしはその意図が全く分からず、ただただ疑問符を頭に浮かべた。自分でいれておいてどんな曲なのかの確認をする意味はもちろん今更なぜそんな確認するのかも分からない。わたしが好きそうなラブソングだから入れていたのではないのだろうか。すると光はまあええわ、と続けた。
「ユイが止めん限り入れ続けるさかい、覚悟しとき」
そしてそれからも着々とラブソングがわたしの音楽プレイヤーに入れられていくのであった。
微々
「ユイの鈍感さも予想外やけど俺の意気地のなさも大概やな…」