dream | ナノ



ぎゅう。


「……」


幸村くんは、こうして人目も気にせず私を抱き締めることがある。


「ユイ……」

「なあに、幸村くん」

「……」


ここに居るよ、という意味合いも込めて私は幸村くんを抱き締め返して、幸村くんの呼び掛けに応える。そのあとに言葉が続くことはない。こういうときは、いつもそう。


「……はあ」


静かに、ため息をついた。いつもと同じ。でも幸村くんは何も言わない。聞いても教えてくれないのを知っているから、私も何も言わない。ただ言えるのは、いま幸村くんは何かしらの理由で不安定ということ。これは安心するため、自分を落ち着かせるための行動。病院にお世話になる前からたびたびあったけど、お世話になったあとは少し増えた気がする。幸村くんは自分の中にいろいろ溜め込むから、本当は私に愚痴のひとつやふたつ、たとえ数えきれないほどの数だったとしても溢してくれていいんだけど、どうしても言うつもりはないらしい。その代わりなのか、こういうことが起きているから甘えられてないわけでも頼られてないわけでもないとは思う。


「……ユイ、ありがとう」

「あ……」


不意にパッと幸村くんは離れて、力なく笑った。私が好きじゃない笑顔。大丈夫じゃないのに大丈夫そうに無理をして笑う幸村くんは、好きじゃない。


「もう、大丈夫」

「……うん」

「ごめん」

「幸村くん」

「ん?」


だから今度は私が抱きついた。えっ、と幸村くんが小さく驚きの声を漏らす。


「ユイ、?」

「なあに、幸村くん」

「なあに、って、」

「すき」

「え」


いたずらに耳元で言って、パッと離れると幸村くんは目を丸くしていた。そして私が笑ってみせると、幸村くんもまたふわりと私が好きな柔らかい笑みを浮かべてありがとうと言った。この笑顔の方が、幸村くんは素敵だ。


「俺もすきだよ」


そうして不意打ちに今度は私が目を丸くした。









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