dream | ナノ



「ユイ、久し振り!」

「!、蔵ノ介、久し振り」


退屈な式のあと、人がごった返す中で声をかけられた。中学校を卒業してから約5年。あの頃よりもっと大人びて、だけどあの頃の面影もしっかり持つ目の前の彼は、わたしの初恋だった。小学校、中学校と9年間同じクラスだった。1度も口外しないままにわたしの初恋は時を止めてしまった。共通の友人は多くいるし、連絡をとろうと思えばとれたはずなのだがそれもせずされず。


「このあと、同窓会出るやろ?」

「え、うん。蔵ノ介は?」

「勿論出るで」


にこり、と変わらない笑顔につられてわたしも笑った。


「でも男の子はいいよね、スーツだもん」

「せやな、女の子は振り袖着てメイクもばっちりな子ばっかりやもんなあ」


こんなん普段せえへんやろ、と蔵ノ介がわたしの髪飾りをしゃらしゃらと手で遊ぶ。とくん、と鼓動が早まったのが分かった。それがなにを指すのか、さすがに今では察しがつく。


「同窓会はさすがに着替えるんやろ?」

「え、うん」

「そっか」


それからなにかを考えるかのような仕草を見せた。わたしはよく分からず次の言葉を待つ。


「少し、俺に時間くれへん?」


予想もしなかった言葉に思考回路が一時停止する。だめ?と首をかしげる彼の意図が分からなかったけれど、流されるようにして思わず頷いてしまった。


「ほな、行こ」


他のやつらに見つかる前に、と小さく付け足しながらわたしの手を引いて歩き出した。式が始まる前に仲良くしてる友達とは会えてたからいいけど、蔵ノ介はいいのだろうか。よく分からないまま外へ出た。そしてそのまま連れられたのはゲームセンター。なにがなんだかよくわからない、というのが顔に出てたのか蔵ノ介は言った。


「プリクラ、撮りたくて」

「へ」

「着替えてまうんやろ?せやから」

「いや、え、なんで、」

「あかん?」


だめなわけない。だめなわけないけど。夢にも見てなかった展開にわたしはただ流されるままで、だけど確かに嬉しかった。


「ユイ」

「うん?」


そうして特に何事もなく最後の1枚を撮ろうというときだった。


「好きやで」

「え、!」


びっくりして蔵ノ介の方を向いたその瞬間、額に触れたのは蔵ノ介の唇だった。そしてシャッター音。ぽかん、とするわたしをよそに落書きへの手順を済ませ早くと促す蔵ノ介。声をかけられてからちんぷんかんぷんで思考が追い付かないわたしなど気にしないかのように蔵ノ介は特に変わらない様子で落書きを始める。綺麗な字と共にされる落書きが女子力を見せていて何事かとびっくりしつつせっかくなので(と言いつつ蔵ノ介に流されていただけのような気もするが)わたしもいつも友達と撮ったときのように落書きをした。


「さっきの、遊びとかからかいとかやないから」


プリントアウトされるのを待っている間、蔵ノ介は言った。


「ずっと好きやった。けど5年間連絡とらんかったし、これからもそうなんかなって思ったら、今日しかあらへんて思って」


びっくりさせたやろ、とあっけらかんと笑う。わたしの思考回路は完全に止まってしまっていた。完全に自分の片想いだと思っていたのが実は両思いで、アプローチされていて、告白されて。成人のお祝いにしては素敵すぎるサプライズなんじゃないだろうか。


「……なんとなく、両思いちゃうかなぁって自惚れてたんやけど、…ユイ?」

「…………、え、?」

「ユイは俺のこと、好き?」


蔵ノ介はそんなわたしなど気にせず、その綺麗な顔を不安で曇らせてそう聞いてきた。どうもさっきから蔵ノ介のペースに流されっぱなしでわたしの頭のなかはきちんと整理できてないままだ。けど、嫌じゃなかった。理由なんて、分かっているけれど。


愛を知る時代






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