dream | ナノ



「クジャさま!」


たたたっ、と駆け寄ってくる少女。キング家が溺愛している一人娘だ。こうして僕が来たのを聞きつけては駆け寄ってきて外の世界の話を聞きたがる。キング家は使用人も皆揃って可愛い彼女をトレノから外へは出したがらないから、彼女は僕の話を聞いて外の世界を想像するしかないのだ。


「クジャさまクジャさま!」

「聞こえてるよ」

「お久し振りです!」

「久し振りだね、ユイ」

「はい!クジャさまは相変わらず素敵でいらっしゃいますね!」


にこにこ。屈託のない笑みを浮かべる彼女は17にもなるのにまだまだあどけなさが残っている。僕が頭を撫でてやれば嬉しそうに、気持ち良さそうに目を細める。彼女はどうしてか、僕の目的を知りながらも恐れることなくこうして会うたびににこにこと笑顔で話し掛けてくる。正直鬱陶しく感じた頃もあったけれど、そんな思いはとうの昔に消えていた。


「ユイも相変わらず可愛らしいね」

「お世辞でもクジャさまにそう言ってもらえて幸栄です!」


えへへ、と嬉しそうに笑う。どうしてこうも僕になついているのだろうか。未だに分からないまま、それでも僕はこうして彼女としばしば会っている。


「ねえユイ」

「はい!」

「…君は、僕の目的も全て知っているだろう?」

「はい!クジャさまが話してくれたことはどんなことでも鮮明に覚えています!」

「…それでも僕に笑顔を向けてくれるのは、どうしてだい?」


きょとん。とその大きな瞳をぱちぱちと瞬きさせ、かと思えばすぐににこりと今度は優しく笑う。さっきまでとは違う大人びたそれに少しだけ鼓動が速まったような、そんな気がした。


「クジャさまの虜になってしまったからです」

「………、」

「だからこうしてクジャさまとお話しできることが嬉しくて嬉しくて仕方ないんです。…それに、クジャさまの目的が果たされるのなら自分の命が犠牲になろうと構わないと思ってます」

「…、………」

「…あ、ごめんなさい。クジャさまはこういうの、鬱陶しく感じますよね……」


僕が黙っているのをマイナスな方向に受け止めてしまったらしいユイは、すぐに申し訳なさにその顔を歪めた。僕は鬱陶しく思った訳じゃなかった。ただそこまで僕を慕うひとはユイが初めてで、だから戸惑った。


「…いや、驚いただけだよ」

「え?」

「そこまで思ってくれるひとはユイが初めてだ」

「でもここまでクジャさまに惚れ込んでいて、その、…不愉快には感じませんか?」

「そんなことを思ったのは最初だけさ」

「それは、その、わたしに心を許してくださったということ、ですか…?」

「うん」

「、」


かぁっ、と赤面する目の前の少女にどくり、と胸が高鳴った。そして困らせたい、と思った。その思いを反映するように自然とその手は彼女の顎を掬う。ユイは戸惑いを浮かべて、だけど頬は赤らめたまま、僕を見る。


「あ、あの、クジャ、さま」

「ねえ」

「は、い」


そして耳元で優しく囁く。


立つ惑星


「僕と一緒においで」


僕の言葉に耳まで赤く染めて、彼女は困惑する。だけど少しの沈黙を経て言葉を呑み込み、赤みのひいた顔ではにかんで、僕の言葉を受け入れた。


「クジャさまとなら、どこまででも」







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