awkward 「あれが、お前の出した答えなんか」 俺に鋭い目線を向けて言ったのは、謙也さんだった。 「…俺は、俺なりの答えを出しただけっすわ」 「それが、あれなんか」 「………」 「お前はあれを、望んでたんか」 「…なんすか、あれ、って」 さっきからあれ、としか表現しない。なんなんだ。俺があのひとを突き放して、何が起こったというんだ。明確に告げてこないその態度に、苛立ちを隠せなかった。 「あのひとが、なんかしたんすか」 「………」 そう問えば、謙也さんは目を丸くした。なんなんだ、一体。あのひとは笑ってないのか。あのひとは、まだ、泣きそうに笑うのか。ふと、突き放したときのあのひとの顔が浮かんだ。あんな顔を、二度と見たくなくて、突き放した。違う。あんな顔を見たくないと思ったけど、俺には突き放すしかできなかった。俺があんな顔をさせてる、なんてことは分かってた。だから俺から離れさせれば、俺が好きな笑顔が、遠巻きにでも見れると思って、突き放した。のに。 「…毎日、目腫らして学校来とる」 「!」 「誰も、何も言わん。ただ普通に接するだけや。それでもあいつは、ちゃんと笑えてない」 嘘だと、信じたくなった。あのひとは、泣き虫だから。それは知っていたけど、目を腫らすなんて、そんなこと一度もなかった。それが毎日目を腫らしている?ましてやちゃんと笑えてない?どうして、?俺がそうさせてしまった? 「財前が突き放した、次の日からや」 真剣に、だけどどこか寂しげに、謙也さんは言った。 「なあ、財前」 「……なんすか、」 「財前は、どうしてあいつを突き放すような真似をしたん?」 「………」 「ほんまはまだ、好きなんやろ?」 どうして、どうしてアンタがそんな切なそうに顔を歪めるんだ。どうして。 「あいつもまだ、財前のことが好きやねん。…なあ、なんでこんなことになったん?なんで、ふたりとも素直に物が言えんのや」 「………」 「…あいつのこと、幸せにしたれや……」 ああ、そういえば、と思い出してしまった。このひとは、あのひとが好きだったんだ。そして、今もまだ。 「…アンタが、慰めたればええやないですか」 皮肉にも、自嘲にも似た笑いと共に、そんな言葉が口をついて出た。俺はなにを言ってるんだろう、と思ったときには謙也さんに胸ぐらを掴まれていた。 「お前…っ!」 「きっとコロッと落ちるんとちゃいます?女ってそういうもんやし」 「あれだけ傷つけられて、それでもお前を想って泣いとるやつを!なんでそないに貶せるんやお前は!!」 「………」 もう、どうすればいいのか分からなくなっていた。あのひとの笑顔を、俺が好きなあの笑顔は、どうすれば見れるんだ。 「なんで素直になれへんのや…!お前が素直になれば、それであいつは笑うんやぞ…?」 「違う、俺が見たい笑顔は、」 「あいつが幸せに笑うんは、お前と居て楽しかったからや!」 「っ、」 「俺らかて、あいつがあんな風に笑うん、見たくないねん…」 悔しそうに顔を歪める謙也さんの手はいつの間にか緩んでいた。チャイムの音がする。謙也さんはなにも言わずに去っていった。 「……俺は、」 あのひとの笑顔が、見たい。 2013/03/05 |