断片 | ナノ

モノクロ


「ほら、あの子だよ……」

「確かにヤバそう…」

「シッ!聞こえたらまずいって」


と小声で後ろ指を指されるながら小声でいろいろ話されるのも1日で慣れた。ひとの過去というものはどこから出回るのか。興味すらないけど。わたしの父親は俗に言うヤクザの頭で、わたしはその可愛い可愛い一人娘。母親は幼い頃にとっくに他界していて、かといって父さんは女遊びもしないから女らしさというのはだいぶ欠けていると自分でも自覚はある。ましてや昔から父さんを慕う人間からはお嬢お嬢と呼ばれ続け、肩書のせいもあって喧嘩がごく普通な生活をしていた。傷だらけ血だらけなんてわたしにとっては呼吸をしているのと同じくらい当たり前。だけど強くなってしまったからか、段々この生活に飽きてきてしまったわたしは単身で大阪に越した。昔、父さんとやんちゃしてたひとが教師として働いている学校への転入という条件付きで父さんからの許可を得て。そして幸か不幸かそのひとのクラスに転入したものの見た目のチャラさなのかなんなのか知らないけど見るからに不良ぶってるひとたちに声をかけられた。勿論粋がっているだけの人間に興味もなにもないわたしはシカトしてたけれど、肩に手を置かれてしまった。そして反射的に取った行動。うめき声と鈍い音がやけに綺麗に耳に入った時にやってしまったとは思ったけど、後悔しているわけではなかった。やらなければやられる世界に居たから、心を許していない相手に触られると反応してしまうのだ。どさり、とそのひとが膝を地につけるとそれを合図に襲い掛かる連れの人間。正直質の高い、なんて言ったら仲間たちに笑い飛ばされるけどそういう喧嘩を経験し、逆に言えばそういう喧嘩しかしたことのないわたしには所謂雑魚のポジションにあたるそのひとたちを蹴散らすなんて朝飯前くらいで。気づいたらギャラリーが大勢いて、声をかけてきた不良ぶってるひとたちは転がってて、少し離れたところから教師たちがなにやっているんだとか叫びながら駆けつけてきた。そしてわたしの名は学校中に知れ渡るどころか、親のことも、通ってた学校には気の短い血気盛んな輩しか居ないくらいでそこでわたしが上に立っていたことすらも、どこから聞いたのか転入先の生徒に筒抜けになってしまった。そんな幕開けをしたわたしの大阪での学校生活。

「あ、あの、常磐さん」

「ん?」

「こ、これ、先生から、」

「ああ、ありがと」

「……!」


無論自分から喧嘩を仕掛けるつもりもないし女の子相手に手をあげるなんて言語道断なのに、普通の会話すらしてもらえないほどに男女から距離をおかれたわたしがクラスで浮くのは当たり前だった。


「常磐さん、おはよう」

「…おはよ」


ただ、そんななかで普通に話し掛けてくれる同級生がいた。容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備、そんな言葉が似合う学校の王子様的ポジションの白石……くん。たまたま席が隣なわけだけど彼みたいなタイプはわたしに対して特になにも思わないのだろう。彼の愛想笑いを見て直感的に思った。校内一モテるであろう彼は数多の女子から言い寄られている。かといって彼は恋人も居なさそうだしはたまた遊び人でもなさそうだし、文武両道の優等生なのだろう。でも女っていうのはぶっちゃけるとめんどくさい部分を持った生き物だから、ぐいぐいきたりしつこかったりする輩は必ず居る。見たところそういうのは得意そうじゃない、というか嫌いそうだからあの愛想笑いが板についてしまったんだな、と勝手に分析をした。本心なんて知ったこっちゃないが彼が心を開いていると思われる友達と居るときの表情を見てればあながち分析は間違っていないように思える。


「今日俺と日直やから」

「ん」

「放課後までよろしく」

「…こちらこそ」


ただ、よろしくと言ったときの微笑みはなぜか愛想笑いには見えなかった。気のせいだとは思うけど。


2015/02/03



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