断片 | ナノ

曖昧と鮮明



「まーくんにお願いがございます」


いつもとは違って真面目な面持ちで言うのは中学に入ってからずっと一緒の真菜。偶然にも男子テニス部のマネージャーをやっている。


「なんじゃ、わざわざ屋上まで来るからにはなんかあるんじゃろ」

「うん」

「言ってみんしゃい」

「え、聞いてくれるの?」

「話を聞くだけ聞いちゃるって話じゃ」


なあんだ、と言わんばかりにふてくされる真菜にさっさと話すように促せば渋々と話した。


「…やっかいな輩に絡まれてるのです」

「は?」

「いくら断っても聞いてくれないのです」

「…、」

「家まで着いては来ませんが携帯が頻繁に鳴ってうざったいです」

「拒否すればええじゃろ」

「電話は拒否しました」

「メールは」

「アドレス変えてくるから無理です」

「………」


どうやら真菜は相当面倒くさいことに巻き込まれているらしい。ストーカーってなんで存在するんだろうか、とぼんやり頭の隅で思った。


「そしてなにより面倒なのがですね、」


と一枚の写真を渡してくる。そこには平凡な一人の男子生徒が写っていた。…まさか。


「赤也と同じ学年に居るんですよ」


参謀に調べていただきました。と暗い表情のまま真菜が言う。


「で、なんで俺に助けを請うような真似を」

「参謀に相談したところ、わたしが付き合ってておかしくない相手がまーくんだそうなので」

「ほー」

「まあ確かに参謀によるとこやつは真面目でインドアな人間らしいので、まーくんはいろいろと正反対だなあと」

「それならブンちゃんとかでもよかろ」

「でも中学入ってから一番付き合いがあるのまーくんだし」


ブンちゃんはともかく他のレギュラー陣に頼むと穏便にすまなそうなことこの上ないし。と小さく真菜が言う。確かに。


「ということでまーくん」

「なんじゃ」

「ストーカーが諦めるまで、わたしと恋人ごっこしてくれませんか」

「………」


はあ、と思わずため息をついた。恋人ごっこ、ね…。俺の気持ちを知らないだろう真菜は、助けを請う目で俺を見つめてくる。参謀は俺の気持ちを知った上で真菜にアドバイスをしたんだろうか。それならとんでもない仕打ちだ。いや、参謀としては背中を押した、という表現の方が正しいのか。


「…ストーカーが諦めたら、それなりの報酬は貰うぜよ」

「、」

「それでいいなら、恋人ごっこに付き合っちゃる」

「ありがとうまーくん!」


なんにせよ、俺に断ることなどできないのだった。




2013/08/12



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