断片 | ナノ





「なぎさ!」

「ねえ、さ、ん…?」

「…なぎさ、――――――」

「え、?ねえさん?ねえさん…っ!?」

「………」

「…っぁ、あぁぁああぁあぁぁぁ!!!」


彼女は動かなくなったひとを抱えて、叫んだ。雨に打たれながら、雨と混ざりながら、血溜まりがじわじわと広がっていく。


「―…、」


そこで、目が覚めた。どうやら縁側に来てから、うたた寝をしていたらしい。傾いていた太陽は、もう完全に消えていた。


「………」

「  」

「なぎさ、」


そんな俺の隣に、夢で泣き叫んでいた彼女が微笑みながら座る。


「       」

「ええよ、」


音のない言葉を紡ぐ。なぎさの声が聞けなくなって、何ヵ月経っただろうか。


「警邏二番隊に異動させた」

「は、?」

「あんなことになった以上、お前の側にいる方がええやろ」


そう言った柔兄が感情を押し殺して無表情で言ったのは鮮明に覚えている。なぎさは暴走する白狐を相手にしたあの日、姉であるさつきを失った。唯一の肉親を目の前で失ったダメージは誰の予想をも上回り、精神的な傷から患う失声症をなぎさにもたらした。


「     」

「…なんも、」


こうして音を一時的に失ってしまったなぎさは、警邏一番隊のエースから警邏二番隊の補欠にまで落ちてしまった。あの時は騎士と竜騎士、詠唱騎士に手騎士、医工騎士と全ての立場で活躍していた彼女も今では竜騎士と医工騎士以外では十分に活躍することが出来なくなってしまっていた。愛用してる剣は本来の血からを発揮できず、使い魔に関しては召喚さえも出来なくなっていた。


「        」

「すぐ潰れるくせに何言っとんじゃ」

「     」

「ほなら、俺と勝負やな」

「      」

「なん、酒豪なんやろ?平気やん」

「     」


でもなぎさは涙を見せない。それどころか笑っている。それが無理をしている証など俺以外にも気づいている人は大勢居るはずなのだが、本心を見せない以上彼女の本心に近づけないのだった。だから俺もこうして酒を飲んだり、普通に接しているのだが。


「金造、出来るならなぎさの傷を癒してくれんか」

「、」

「なぎさがさつきの次に大切にしてはったのは、お前やさかい」


柔兄に言われたことを、ふと思い出す。確かに俺となぎさは同い年で幼馴染みなのだから、さつきを抜けば誰よりも一緒に居る時間が長かった。祓魔塾生時代に関しては、お互い共にいた時間が一番長いだろう。それ故に俺はなぎさのことがかけがえのない存在になっていたし、なぎさも柔兄たちより俺になついてくれていたのはなんとなく分かっていた。だけど、俺がなぎさの傷を癒せるのだろうか。俺の想像を遥かに上回った彼女の傷を、どうやって俺が癒せるのだろう。




2013/04/08



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