デイドリーム 四天宝寺中、男子テニス部。その中でも一際目立ち、そして強いレギュラー陣。そんな彼らがどうしてか共に生活している。それがこの家。一体誰の提案で、誰の財産で建てられたのかも知らない。そんなところにひとり放り込まれたわたし。マネージャーということで、彼らが練習に打ち込めるように家事などをする。 「……っていうのが表向きなんだもんなあ」 「どないしたん、綺羅」 「っ!」 ひょい、とわたしの肩から顔を出してきた蔵ノ介。普通ならこんなに至近距離に彼の顔があるなど、恋人でもなければありえない。のだが。今の状況は"ありえない"のだから仕方がない。 「な、なんでもない…っ」 「へえ?」 だけどいくらなんでもこれは近すぎないか。と思うその片隅でわたしはここに来る前の出来事を思い出す。 「はい?」 「だから見合いの話が後を絶えないんだ」 「それで…?」 「これがその希望者たちの写真だ」 「この中から誰かと見合いをしろ、と?」 わたしは所謂社長令嬢ってやつで。だけど父上はずっとわたしを社交の場に出すのをためらっていた。のだがどうも断れなかったらしく、15になったばかりのわたしは遂に社交の場にお披露目された。その途端にわたしとの見合いを求める声がこうして多く来てしまったらしい。もちろんわたしは普通に恋愛がしたい。家柄目当てで見合いを申し込むようなひとたちとなんてごめんだ。わたしはわたしなのだ。そう主張するわたしに父上は、まるでわたしがそう言うのを待っていたかのようにこの"ありえない"状況を提案してきたのだ。そしてわたしはそれに乗ってしまった。 「ま、まねーじゃー…」 「せや、表向きはそうなっとるさかい」 そんなわけで父上と昔からの知り合いらしい渡邉さん(オサムちゃんでええよ、と言われたが父上の知り合いという以上は迂闊に呼び捨て出来ない…)の教え子たちが暮らすここにわたしも入ることになった。"ここで恋人を作ること"。それが父上の提案。ほんとは普通に学校生活の中で見つけたかったのだけどそこは仕方がない。恋愛することを許されただけでもありがたく思わないと。とそういうわけでわたしは今に至る。わたしのなにに興味をもったか、それはそれぞれだろうけどわたしにそれなりの興味を持っているらしい彼らは毎日毎日わたしをどきどきさせてくるのだ。 「悩み事やったら俺が聞くで?」 「蔵ノ介たちが悩み事だ…」 「なにに悩んどるん?俺に惚れて悩んどるん?」 「なにその自信…」 はあ、とため息をこぼすわたしにふっと笑った蔵ノ介。かと思いきやわたしの耳を唐突に舐める。 「ひぁ…っ……!」 「せやかてそないにかわええ声出すんやから、自惚れたくもなるやん?」 「う、うるさい…っ!」 こんなことも最早日常茶飯事となってしまった。蔵ノ介だけじゃない。謙也や光たちも、みんなそれぞれのやり方でわたしに手を出してくる。これがまだ皆俗に言うイケメンだから良いものの。…まあ、好きでもない男と結婚するよりはまだこっちの方がきっとましだ。ということでわたしは奮闘しているのだった。 2013/03/31 |