■廉アマ■

青春デート

「どこいったんやろ・・・」


家族連れでにぎわう人ごみの中,盛大にため息を吐く。

先ほどまで隣にいた小さなツレは少し目を離した隙に姿を消してしまった。
かれこれ30分ほどは捜索を続けているが,見つかる気配は,未だにない。

というか,何で俺はこんなとこにいてるんや。

周りを見渡す。
度々訪れているこの繁華街は今日も変わらず人で溢れていた。
何も変わらない,いつもと同じ日常。

先ほどの出来事を思い出す。


え,もう9月!?夏終わってしまうやん!!
夏休みといえば海!!
光る砂浜!さざめく波!
可愛い女の子たちの水着姿!!

とか思って,勝呂たちに精一杯アピールしたのだが。

『こんの阿呆!お前はもっと時間を有意義に使うってことが出来へんのか!?俺は鍛錬せなあかんねん。行くわけないやろ』
『へいへい。子猫さんはどうします??』
勝呂からは同意がもらえるとは思っていなかったため,直ぐに標的を変える。
『いきませんよ』
『へ?』
『僕はずっと前から坊と一緒に鍛錬する約束してましたから』
にこにこと笑う子猫に勝呂を振り返る。
『え,ちょ,坊!俺には一言もそんなこと・・・』
『お前がまじめに取り組むとは思っとらんかったからな。予想通りや』
本気じゃないやつは邪魔や,一人で行け。

そういって二人は仲睦まじ気に俺の元を去っていった。

他の塾生たちにも各々の理由で断られてしまう。

『廉造』

噴水の淵に座っていると,横から声を掛けられた。

『甘いものが食べたいデス』

俺は最近,この子が気になって仕方ない。

度々こうして俺の前に現れては,甘いものを要求してくる。
そして,無表情に自分の希望をぶつけてきた彼に,俺は力なく笑ったのだった。



「アマイモン君て・・・方向音痴なんやね」
「何かいいましたか」
「おわっ!?」
「スミマセン,ちょっと所用にいってました」

突然脇から顔を出す件のツレに驚きの声をあげる。

「び,びっくりしたぁ・・・」

いなくなるんも突然やったけど,戻ってくるんも突然____っっ

「っ____」

彼の姿を認めた瞬間,俺は固まってしまう。

「・・・どこいってたん?」

凝視と,言っても良いほど,彼を見つめる。
さきほどまでは見てるこっちが暑くなるくらいのゴシックな服装だったが・・・

「はい,ちょっと呼び出されたので,兄上のところへ」
「兄上?お兄さんなんかいてたん??」
「??はい,いいませんでしたか?」

首を傾げるその動作があまりにも可愛く思えたのは服装のせいだろうか。

「ち,ちゃう,俺が聞きたいんは,服のこと」
「服・・・?あぁ,なんか礼儀としてコレを着なきゃダメだって無理やり着させられました。スースーします」

胸元を掴むと,自分の服の中を覗き込む仕草をする。

「あ,あ,そんなしたら,崩れるて」

ばっと手を掴む。

「ぁ・・・」


ドクン


バチっと視線が絡み合い,目が離せなくなる。

あぁ,きっと服のせいやな。

腕も白くて・・・ほんま,女の子みたい・・・

「・・・それ,女の子の浴衣やで,アマイモン君」

無理やり視線を引き剥がし,ボソリと呟く。

「っな!?おんなっ・・!?」

かぁっとツレの顔が赤く染まる。

そう,彼が着ていたのは紛れもなく,女物の浴衣。しかも薄いピンクと白のグラデーション,帯は紫,と。
白い,透き通る肌に良く似合う浴衣。
仕立てた人物はさぞかしセンスのいいことだろう。

「兄上ぇ・・・・・」

ギリィッと歯軋りをしながら拳を握る彼に,ギクリと腰が引けてしまう。

半端ない負のオーラや・・・

「に,似合っとるよ??」

その言葉を呟いた瞬間,彼の目が大きく見開かれる。

それは,本当だ。
本人にとって良いか悪いかはわからないが,事実,一瞬見とれてしまうほど,可愛い。

男の子に可愛いもくそもないはずなんやけど。


決して,愛嬌があるとはいえないその顔は,よく見ていると少しばかりの変化をしていることがわかるようになった。

僅かにだが,眉が寄ったり目つきが変わったりするのだ。

そんな少しのことが嬉しかったりする。

彼が見せるいろんな顔を見てみたい。

これって・・・恋,なんかなぁ??

他の女の子たちに感じるほわっとした感覚と違う,こう,胸の奥がキュッとなる感じ。

「廉造」

名前を呼ばれ,我にかえる。

「__っ。ど,どないしたん?」

「顔が赤いです。どうしました」

俺を覗き込む彼の顔があまりにも愛らしくて。

「っ」

恋であることに気づいた途端,どうしようもなく,掻き抱きたくなって。
でも,そんなことしたら嫌われるのは明白であり。

「な,んでもないよ」

慌てて取り繕う。
むぅ,と納得のいかない顔の彼に,俺は手を差し出す。

「歩きにくいやろ?転ばんよう,手ぇつなご」

「そうですか?」

特段,歩きにくいような素振りも見せないツレは,なんともなしに俺の手を軽く握り返した。

ひやっとした感覚が手のひらに伝わり,俺の熱が彼へ移っていく。

なんや,中学生みたいやな,俺。

手をつないだだけで,こんなにも満たされるものなのかと目を細める。

「せっかく浴衣着てくれたんやし,今日花火でもしよか?」

「ハナビってなんですか?」

「えぇっ!?花火しらんの?!」

「・・・・はい」


あ,すねてもうた。
・・・そうか,この子は帰国子女なんやな。

日本語についてあまりにも知らな過ぎるし,文化についてだってそうだ。

「じゃあ,実践しよか」

触れる程度に握っていた手にギュッと力を込め,俺は歩き出す。

「ナニをですか」
「花火。やったほうがわかりやすいて」
「・・・・はい」

お?機嫌なおしたかな??


ふぅ,と息を吐く。


これが,青春ってやつなんかなぁ。
まぁ相手,男の子なんやけど・・・


ひとり薄く笑いながら花火って何処で売ってたっけ,と思考を巡らせる。

「そうか」

「海で,花火やろーかな」

とてつもなく行きたかった海。
本来の目的とはかけ離れるが,まぁいいだろう。

あの潮の匂いを嗅げるだけでもよしとする。

たのしなってきたな,とにへぇっと笑った俺をみて,ツレはボソリと。

「廉造が楽しいと,僕も楽しいです・・・」

「・・・」

そんな,たった一言が,俺の心を明るく照らしてくれるんだ。


オワリ

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