■サタアマ■
退屈
「はぁ・・・」
退屈だ。
退屈で退屈で仕方がない。
「まったく・・・親不孝な子供たちだぜ」
メフィストの野郎はいつもだからいいとして。
「俺様から地の王まで奪うとは,あいつよっぽど俺のこと嫌いなんだな」
自分としては長男坊も愛してやまないのだが。
アマイモンもアマイモンで,物質界での生活が気に入ったのか,一向に帰ってくる気配がない。
「ちょっくら,お灸を据えてやる必要がありそうだな?」
ペロリと乾いた唇をなめながら,陰鬱とした空気を吸い込む。
「アスタロト,腐の王よ」
俺様が静かに呟くと,黒い影が現れる。
頭には大きな巻き角がついているのが離れていてもわかった。
「・・・ここに」
「おまえちょっと物質界行って来い」
ピタリ,と影の動きが止まる。
「・・・は?」
「そんで地の王連れ戻してくれ」
地の王という言葉に,影が揺れる。
「父上も意地が悪い」
「ギャハハッ,今に始まったことじゃねぇだろぉ」
そう,地と腐は仲が悪い。
顔を合わせれば喧嘩ばかり。
それをわかっていて命じているのだ。
どうせ連れ戻すなら面白いほうがいいからなぁ。
それに,と腐の王を見据える。
「わかってんだぜぇ?お前本当はあいつのこと___」
「かっ畏まりました!!行って参ります!!!」
俺様の言葉を遮るように,アスタロトは部屋を飛び出していった。
「ギャハハハハッ!!可愛い息子たちだぜぇ!」
数分後。。。
「はな,っせ!!」
「うるっせぇ。父上がお呼びだっつってんだろ!」
ギャーギャー言いながら俺様の部屋へ入ってくる。
「だからってキミが来る意味がわからない!!」
「しょうがねぇだろっ!!俺だって好きでやってんじゃ___って!いってぇっ!!!ベヒモスに噛み付かせてんじゃねぇよっ!!」
「ベヒモス,いいぞもっとやれ!」
「お前ら,うるせぇぞぉ」
「「!!」」
俺様の声にビクリと二人が口を閉ざす。
「元気が良いのはいいことだけどよぉ」
「ち,ちうえ・・・」
急に勢いを失ったアマイモンが目を伏せる。
「・・・スミマセンデシタ」
「んん〜?どれのことをいってんだぁ?」
「うるさくしたことと,その・・・」
帰ってこなくて,とボソリと呟く。
その姿は本当に昔から変わらず,とても可愛らしい。
可愛いなぁ・・・
こんな可愛かったら親バカの気持ちもわからなくもないぜ。
「悪いことしたって思ってるなら」
ス,と立ち上がるとアマイモンはびくっと体を震わせた。
いつの間にかアスタロトは部屋の隅でじっと静観している。
「もう,物質界には戻らないよなぁ?」
「ぇっ・・・」
息子の顔から色が消える。
ククっと喉の奥で笑う。
「それともお前は俺様の言うことより物質界を選ぶのか?」
メフィストみたいに。
「それに,お前のだぁいすきなあんなことやこんなことも,出来なくなるんだぜぇ??」
いやらしく笑うと,アマイモンは顔を真っ赤にして視線を外す。
乾いた唇を舐める。
久々に見ると,やっぱり,そそるな・・・
重厚に覆い隠されたその白い肌を暴くときが,ここ最近の一番の楽しみだった。
息子に近づき,頬をなでる。
「ふ・・・っぅ・・」
泣きそうな顔で下唇を噛むその姿に欲情しないヤツなどいるだろうか。
「お前だって,溜まってんだろ」
耳元で囁いてやる。
「ぁ・・」
吐息が当たり,びくびくと小刻みに震えるその腰に手を回す。
ちらり,と横目でアスタロトを見る。
まったく動かない。
面白くねえなぁ。
「たまってなんか・・・」
「ほうぉ?誰かにしてもらってたのかぁ?」
ニヤニヤと言ってやる。
「・・・!」
ボンッと顔がゆでだこのように染まる。
ん?・・・この反応は・・・
「・・・まさか」
「・・・・あ,の・・・」
まさかあのヤロウ・・・
「チッ・・・メフィストのヤロウ,俺様がいないからって好き勝手しやがって」
「ぇ,あ・・・なんで」
考えを読まれたことに驚きを隠せずにいる可愛い息子は潤んだ瞳で俺様を見上げてくる。
「お前の反応みてりゃわかるっつうの。あー・・・あいつやっぱ一回ぶん殴りてぇ」
「父上・・・?」
そんな可愛い顔でこっちみんなよ・・・理性吹っ飛ぶだろうが。
堪えきれず,アマイモンの顎を掴むと,そのぷっくりとした唇を味わおうと顔を近づける。
「ち,父上っアスタロトが___」
「・・・お前・・」
あるものを見つけ,俺様は動きを止める。
「ぇ・・・?」
首筋にあるソレは,確実に。
メフィストのヤロウがつけた,痕。
「お前・・・もしかして毎日・・・・?」
「___っ」
悪魔の治癒能力から考えればこんな痕はすぐに消える。
そしてアマイモンの反応からして,俺様の予想が当たっていることは明白だった。
「・・・やっぱあいつぶん殴る」
そう吐き捨て,反論しよう開きかけた唇を塞いでやる。
「ふっ・・んっ・・・!!?」
横目でもう一度アスタロトを見遣る。
「・・・・・・」
微動だにしない。
いや,固まっているのか。
普段無表情なこいつが妖艶なオーラを纏うと,淫魔とは比べ物にならないくらい,そそる。
それを目の当たりにして,固まっているのだろう。
愛らしい息子たちだ。
唇を離してやると,ガクン,とアマイモンが崩れる。
「なんだぁ?久々の俺様のキスはそんなに旨かったか」
ギャハハハっと笑うと,アマイモンはトロンとした表情で眉根を寄せる。
「確かに,淫乱なお前が1ヶ月もお預けされて我慢できるわけねぇよな」
頭をなでてやると気持ちよさそうに目を細める。
「ごめんなぁ??これからは,ご希望どおり,毎日くれてやるよ」
腰が立たなくなるくらい,な。
その言葉を聞いた瞬間,細めていた目が大きく見開かれる。
そんな可愛い反応されると,もっといじめたくなるぜ?
そう呟きながら,息子を担ぎ上げる。
「んじゃ,こっから先は俺様たちだけの時間だから,お前は帰っていいぞぉ」
アスタロトのほうを向くが,一向に動く気配がない。
「ほんと,可愛いぜ」
クックック,と喉の奥で笑う。
力なく項垂れる地の王を肩に乗せ,俺様はその部屋を後にした。
後日。
机の上にひとつの袋が。
「ん?メフィストから荷物・・?」
送り主欄を一瞥するとビリビリと袋を破く。
中から出てきたのは数枚の小さな紙。
「写真?俺様写真は好きじゃ・・・・・・」
ペラリとめくって硬直してしまった。
そこに写っていたのは。
女性物の下着をわずかに纏っているだけの,
地の王の,
絶頂シーン。
手から力が抜け,写真が床に散らばる。
ぷっつん。
「・・・・・・あんの,クソガキがあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「うわっ!?」
魔神の城からとてつもない爆音が聞こえ,アマイモンは自室で飛び上がった。
「父上がキレるなんて,珍しいですね・・・」
自分が原因だとは露ほども思っていない地の王が,この後拷問に近い仕打ちを受けたのは言うまでもない。
オワリ
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