4.5話
『あ、伊助。庄左ヱ門の連絡先教えとく』
電話越しのきり丸の言葉に、一瞬息が止まった。
土井先生も言ってたのに。きり丸は庄ちゃんの連絡先を知ってるって。
「…ありがとう、きり丸。でも、とりあえずそれは保留にさせて」
『?なんで』
「うーん…まだ、勇気がでないかな」
『いっつも思うんだけどさ、伊助も庄左ヱ門も難しく考えすぎなんじゃねぇの?』
脹れたような声をだすきり丸に苦笑する。
「でも、きり丸。僕はともかく、庄ちゃんは良くも悪くも慎重だったからあんなは組を引っ張っていけたんだと思うよ」
『まあ、今の連絡先の話はそれには関係ないけどな』
「はは、その通りなんだけどね」
笑う僕に、きり丸は諦めたようで、聞きたくなったらいつでも言って、といってくれた。
本当にきり丸は、人の心情を読むのに長けていると思う。
きり丸のように、分からないような顔をしてこちらの胸中を察してくれる聡い人もいれば。
「で、伊鈴ちゃん。きり丸って誰?」
分かっているのに分からないフリをしてずかずかと他人の心に入ってくる人間もいる。
そして、それが許されることも分かっている、強かな(狡)賢い人間が。
「だから、友達だって…」
「僕、伊鈴ちゃんの交友関係は全部知ってるつもりだったんだけどな。どこで知り合ったのかな?」
なにそれ怖い。
精ちゃんの言葉に身震いしていると、玄関から、お邪魔しますと聞こえた。
今の僕には天の助けにも聴こえる、弦ちゃんの声だ。
「…何をやっとるんだお前らは」
「真田、邪魔だと分かっているならこないでくれないかな」
「は?」
分かってないよ、精ちゃん。全く通じてない。
そんなかみ合わない二人を座らせると、自分はお茶を入れるために部屋から出た。
いや、逃げた。
ごめん、弦ちゃん。君の野太い悲鳴は聞こえなかったことにさせてもらうよ。
戻った後に問い詰められる、そんなことは分かってても。
心構えさえあれば、精ちゃんを交わすことぐらいは出来る、と思いたい。
(僕はあの学園で、六年間みんなと学んだんだから)
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庄左ヱ門と伊助が文明の機器で連絡を取らない訳。