dear partner 14




朝食の準備の為食堂の扉を開けると、そこには先客がいた。

「柳生、先輩…?」

「…おはようございます、二郭さん」

礼儀正しく挨拶されて、こちらも慌てて頭を下げた。
その様子に、柳生先輩はくすりと笑った。
なんか変、だったかな?
そう思ったことがばれたのか、柳生先輩はすみません、と謝ってきた。

「二郭さんが可笑しいわけではないのですが…幸村君の幼馴染にしては普通だなと思いまして」

「普通、ですか?」

「はい。幸村君も真田くんも。二人ともいい意味でも悪い意味でも人間離れしていますから」

テニスでも、性格上でも。
そう付け加えて、柳生先輩は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

「精ちゃんも、弦ちゃんもとっても優しいですよ?」

「…そうですね、二郭さん。あなたにはそうかもしれません。
もちろん、私たち部員もお二方の優しいところは知っていますよ。それでも、特に幸村君は、二年生で部長をできるくらいのナニかを持っています。
それは、私達一般人には少し恐ろしいのかもしれません」

水筒にミネラルウォーターを入れ終えて、柳生先輩は僕の横の扉から出ようとする。
きっとこの人は、僕のことが好きではないんだろう。
嫌いになるほど僕のことを知っているわけではないだろうが、気に入らない部分があるようだ。
夢のせいで、他人の感情に機敏になっているらしい僕には、彼の僕への悪感情が面白いほど伝わってきた。

「では、朝食を楽しみにしていますね」

扉を開けて僕に一言そう告げる。
閉まる瞬間、僕は彼に向かっていつもなら分かっていても言わない言葉を口に出した。


「精ちゃんたちよりも、アナタのほうがコワイですよ。

…仁王先輩」



はたして、僕の声は聞こえたのか。
驚くような気配は確かに感じたので、おそらく聞こえていたんだろう。

口に出した言葉に少し後悔して、僕は朝食を作る為に包丁を握った。
伊助ではなく、伊鈴の頭に切り替える為に。

なにも知らない少女である伊鈴に戻る為に、朝食作りに集中した。




*
*
*




「ばれとったとはのう…」

柳生の格好をといた仁王は、面白そうににやりと笑った。
合宿で同室の一人である丸井は、その笑みをみてぞくりと全身が粟立つのがわかる。
大体にして、仁王という男がこの悪そうな笑みを浮かべている場合。
テニス部を巻き込んで、騒動が起こることを、丸井は短いとはいえない付き合いで分かっていた。

「仁王…なんか悪いこと考えてるなら、考えるだけにしといてくれよ〜…」

「ブンちゃんも変なこというのう…俺が今まで悪いことなんてしたことあったか「あっただろぃ!」」

仁王の言葉を遮って、丸井は声を張り上げた。

「いつもいつもいつも!とばっちりを受けるのは俺とジャッカルと赤也じゃねーかよ!」

「今回は大丈夫じゃき、安心しんしゃい」

「それ前のときも行ってただろぃ!」

熱り立つ丸井に、仁王はまたにやりと笑った。

「安心しんしゃい、今回は絶対に変なことはせんよ」

「…本当だろーな…」

「大丈夫じゃ、ちょっと気になる女の子がおるだけじゃ」

「女子…?久々知先輩か?」

丸井の脳裏に、昨日見とれた麗しい美少女の姿が浮かんだ。
それに首をふり、仁王は丸井を凍りつかせる言葉を発した。

「二郭伊鈴じゃ」

二郭、伊鈴。
幸村の大切な大切な、幼馴染の女の子。

仁王の言葉と、少女の姿がイコールで繋がったとき。
丸井ブン太は絶叫していた。



「もーテニス部の平和をかき乱すのはやめてくれよぃぃぃぃぃ!!!」








こんなことになっているとは知らず、少年達のために少女はひたすら直食の味噌汁の具である葱を切り刻んでいた。





(やっぱり味噌汁には豆腐なのだ!)
(…それには、同意しますよ先輩)




 
    





仁王とブンちゃんの喋り方が分からない…;;







 

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