dear partner 13
肌をゆるく撫でる業火と、色濃い血の匂い。
学園にいた頃は近かったこの空気も、卒業して久しい自分にはずっと遠ざかっていた匂いだ。
懐かしさと、この戦の空気でしか味わえな興奮。
その二つが、僕を忍に戻してくれる。
「悪いな、伊助。家業、忙しいんだろ?」
「きり丸、そう思うなら自分で特殊火薬の調合覚えなよ…
まあ、でも今回は声をかけてもらえて嬉しかったよ」
「え?」
「久々には組全員が集まったのを見れたから」
そういって、階下で暴れているであろうは組の皆を思った。
今回の、同窓会とはいえない殺伐とした集まりのはじまりは、フリーのきり丸が乱太郎と兵太夫の勤めている城に派遣されたのが切欠だった。
乱太郎達の勤めている城主は、ある城を攻め落とす幕開けを忍に任せることにしたのだという。
忍隊の部隊長をしていた兵太夫は、それはもう張り切ったらしい。
結局、は組を引き連れて争闘開始となった。
僕は家業の染物する傍ら、火薬委員で培った知識を使って火薬武器を作ったりもしていた。
そこに兵太夫は目をつけたらしい。
「ま、俺たちは裏方に回って、特攻隊に前は任せるか」
「…きり丸、それって楽がしたいだけなんじゃ…」
「俺はスピード重視なの。あの筋肉達磨たちのノリにはついていけねー」
さらりと、美しい烏羽色の髪を翻し、きり丸は自分の持ち場に戻っていく。
くすりと笑うと、僕は自分の作業に戻ったのだった。
は組が全員集まれば、不可能なことなどないと思っていた。
それが崩されたのは、僕が作っていた火薬が爆発したと同時。
僕を狙って射られた矢が、最愛の人を貫いた瞬間だった。
「伊助!」
自分の名を呼ぶ声で、意識が覚醒する。
落ち着かない呼吸と、心臓。
まわりを見渡して、ようやく前(伊助)の頃の夢をみたのだと気がついた。
「大丈夫か?伊助…大分魘されていたが…」
「く、くち先輩…」
こくりと頷いた僕に、久々知先輩は心配そうに頭を撫でた。
「…目が忍の頃に戻っている。夢で、見たんだろう?」
「はい…でも、大丈夫です。すみませんでした…」
外をみると、朝日は半分程顔を出していた。
もう少し寝ようと思えば眠れる時間だが、そんな気分には到底なれない。
「伊助、…」
「大丈夫ですよ、先輩。…僕、朝ごはんの用意してきますね?」
もの思わしげな様子で僕を見つめる先輩の瞳を見つめ返し、僕は笑った。
多分、笑えていたと思う。
ただ、精ちゃん達なら安心したように笑うのに、久々知先輩はずっと心配そうに僕を見ていた。
(あの時の記憶は、忘れられない)
(笑っていた、君の笑顔も)
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大晦日に更新できました^^
今年はありがとうございました、来年もよろしくお願いします。