dear partner
04
精ちゃんも待たず、僕は家へ帰った。
土井先生にもらった、きり丸の電話番号が書かれた紙を握り締めて。
ベッドの上で正座になって見つめるのは、見慣れた僕の携帯だ。
画面には、教えてもらったきり丸の携帯番号。あとは通話ボタンを押すだけなのに。
「緊張して押せない…」
さっきから悩んで30分は経とうとしていた。
「伊鈴ちゃん、さっきから同じ格好でどうしたの?」
「うひゃぁ!!」
ピッ。
背後からかけられた声に、驚いて押してしまったのは通話ボタン。
素人の気配が読めないなんて、元忍者として情けない…コール音を呆然としながら聞いてると、3コールで声が聞こえた。
『…伊助?』
「き、りまる?」
懐かしい、声だ。僕とちがって、昔と変わらない男の子の声。
『あぁ、…久しぶり、伊助』
「うん、きり丸も…話せて、嬉しい」
「伊鈴ちゃん?きり丸って誰?」
…忘れてた、精ちゃんが声をかけてきたんだった。
訝しげな顔で、僕の携帯をみつめている。
『?伊助、近くにだれかいるのか?』
「え、うん。ちょっと幼馴染が…。
…ごめん、精ちゃん。何か用事があった?もし急ぎじゃないなら明日にしてくれないかな」
「…伊鈴ちゃんが急いで帰ったみたいだったから、心配になっただけだよ。
元気ならいいんだ。…また、明日ね?」
そういって僕の頭を撫でて、精ちゃんは部屋を出て行った。
横顔は、見慣れた精ちゃんの微笑み。でも、すこし歪んでいるような気がした。
「…?あ、ごめんきり丸!
あのね、僕、今日土井先生に会うまで、昔の知り合いって会ったことなくって、
…この記憶も、思い出も、全部自分の妄想じゃないかって疑って、」
『いや、俺も。親が死んで、土井先生に引き取られるまで夢だと思ってた。』
「…皆に会いたいなぁ。ねえ、きり丸は誰と会えた?」
『俺のクラスには、乱太郎と虎若と、金吾と喜三太、それに担任に山田先生だし。』
「山田先生が担任なんだ!土井先生も教えてくれればいいのに…」
『隣町の学校には、三次郎と兵太夫と、それにろ組の怪士丸に伏木蔵もいる!』
「…いいなぁ、皆に会いに行きたいな…」
きり丸の口から出る名前は、懐かしい名前のオンパレードだ。
懐かしくて、嬉しくて、どうしようもないくらい心臓が高鳴った。
「絶対、絶対、僕会いにいくから…」
『泣くなよ、伊助。
俺も、皆に伝えて待ってるから…神奈川だろ?俺たちが、会いにいってやるよ』
「へへ…きりちゃん男前!」
ぽろぽろと落ちてくる涙を拭いながら、僕は笑った。
『だって伊助はは組の母ちゃんなんだから、母ちゃんの所に帰るのは当たり前だろ?』
は組の母ちゃん。
昔はすこし嫌だったその呼び名も、今なら嬉しい。
『父ちゃんにも、会いに行ってやらないと!』
「ふふ…庄ちゃん、元気にしてるかな?」
『伊助に会いたいって、前会ったときは言ってたな…伊助がいないとなんにも出来ないんだってさ?』
「ほんと、僕がいないと庄ちゃんダメだなぁ?」
でも、僕も庄ちゃんがいないとダメみたいだ。
そういうと、きり丸はダメ夫婦だと明るい声で笑った。
惚気たわけじゃないんだよ。
ただ、やっぱり、庄ちゃんは僕の半身のようなものだったから。
(起きて、隣に庄ちゃんがいないことに、まだ違和感を覚えるくらい。
前は一緒に過ごしていたんだ)
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