dear partner
03
「ねえ、精ちゃん!本当に私先生に呼ばれてるの…!」
見た目と違って、力の強い精ちゃんの手はなかなか離れなかった。
もちろん、昔にならった体術を使えば放すこともできるけど。
普通の一般女子として育った私が、幼馴染である精ちゃんにそんなことすれば怪しまれるに決まってる。
「え?本当だったんだ。学級委員会の用事?」
「…そんなかんじ!」
「でも二郭、野本はそんなこと言ってなかったけど…
喜び勇んで部活行ったじゃん」
「…赤也はこういってるけど?」
切原くんと私を交互にみながら、精ちゃんは首をかしげた。
いい加減、周りの女子の目も痛い。僕的にはがっちり手を掴まれているだけだけど、傍から見たら手をつないでいるように見えなくもない。
女として生きてきて最近分かったけど、年頃の少女の嫉妬は怖いものだ。
「…学級委員として、じゃないけど…
私編入生だから、いろいろ教えてもらうことになってるの!」
それじゃ、と緩んだ精ちゃんの手から自分の手を抜き取り、僕は一目散に社会化準備室へ向かった。
「…逃げられちゃったねぇ…」
「いいんすか?部長?」
「ま、どっちにしろマネージャーにはなってもらうから。今日は良いよ」
そんなことを精ちゃんが言ってたなんて、知る由もなく。
僕はあの懐かしくて暖かい、先生に早く会いたくて走ってはいけない廊下をひたすらかけていた。
少し乱れた息を整えて、指定された社会化準備室のドアを叩く。
『どうぞ?』
「…失礼します」
懐かしいそのやりとりに、どうしようもなく胸が熱くなった。
「…土井先生…!」
「伊助、久々だなあ!」
笑う土井先生の顔は、昔と何も変わりなく優しい。
まるで一年は組にいた頃のように、僕は土井先生に飛びついた。
「せんせ…!会いたかったです…!!」
「はは、泣くな伊助」
泣き続ける僕の頭を、先生は落ち着くまで撫でてくれた。
授業や委員会で失敗したときに慰めてくれた、土井先生の撫で方だった。
「やっと泣き止んだか?」
「ずび…はぃ。すみません、僕…先生の服びしょびしょにしちゃった…」
「ああ、大丈夫だよ。着替えのジャージあるし。
しかし伊助は完全に女の子って感じだなぁ。かわいいかわいい。伊助は変装の授業でも成績良かったし」
「…先生、僕いま完全に女の子なんだけど」
あ、そうだな。すまん、と先生は誤って、僕をひざに乗せる。
「…先生、この格好誰かに見られたら誤解されますよ?」
「大丈夫だよ。ちゃんと他に気配がないか確認してるから。
それより伊助、いままで一人だったのか?」
「うん。僕が昔の知り合いにあったのは先生が初めてだよ。」
こてん、と先生の方に頭をのせて話していると、本当に昔に戻ったようだった。
「そうかぁ。…じゃあ、皆に伊助がいたこと知らせないとな」
「他にも学園のひとを知ってるの!?」
「ああ、きり丸は変わらず俺と住んでるし、前の公立の学校にはわりと集まってたなぁ」
ごくり、と咽がなった。
それじゃあ、もしかして
「庄ちゃん…庄左ヱ門も?」
「…あぁ、弓道の全国大会で会ったよ。きり丸が連絡先を交換してたから、今度きり丸に会ったときに聞くといい」
「全国大会って…庄ちゃん、県外にいるの?」
「庄左ヱ門は今大阪に住んでいるよ」
そういって土井先生は笑った。
庄ちゃん、やっと、会えそうだよ。
僕がもう子供じゃなかったら、すぐにでも会いにいけるのに。
(ちいさな体が歯痒くて仕方なかった。)
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