純情恋歌 「バンビ、桜井弟が来てる」 休み時間におしゃべりしてたら、ミヨが廊下に目を向けて言った。 私も目線を動かせば、琉夏くんが笑顔で私に手を振っていた。 よく見れば、唇が動いている。 (美奈子、おいで?) 戸惑っていると、 「バンビ、無理しなくてもいい。桜井琉夏は焦ってない…頑張って」 ニコりと微笑むミヨに見送られて、私はソロソロと浮き足立って琉夏くんの元へ急ぐ。 * * * 琉夏くんは学校でも極力私と一緒にいたがる。 以前は私がマネージャーを務める部活動にまで付いて来ることもあった。 けど、そうすると主将の不二山くんが「そんなに、こいつと一緒にいたいんなら柔道部に入ればいい」と熱心に入部を薦めてくるから、それに嫌気がさしたらしく部活に付いてくることはなくなった。 ただ、部活が終わる頃に一緒に帰ろうと私を待ってることがある。どこで暇を潰してるんだろ? バイトも一緒で私と離れたがらない。 * * * 琉夏くんに連れられて、屋上に向かう。 休み時間を満喫する生徒たちでごった返してる廊下を歩くその間、琉夏くんは逃げる私の手を捕まえた。しっかり繋いで離さない。 恥ずかしくてしょうがない私が手を離そうとすると、手はより強く繋がれた。離して欲しいと琉夏くんを見上げると琉夏くんは「ハハハッ」と楽しそうに笑って、より注目を浴びようとする。 屋上に着くと誰もいなかった。 すでに真夏の日差しが照りつける季節だから、みんな涼しさを求めて屋上には出ないのだろう。 タンク裏の日陰に移動すると琉夏くんは私をギューッと抱きしめてきた。 咄嗟のことに逃げようと試みても、すでに琉夏くんの手中に捕らわれ逃げられない。顔が熱い…これは暑さのせいじゃなく、琉夏くんのせいだ。 さっきと同じように、身を捩っても、更に抱きしめる腕の力は強まるだけだ。 しばらく、そのまま何もしないで抱き合う。 思考が自分の汗の匂いとか様々な心配と、恥ずかしさと嬉しさでごちゃ混ぜになっていたら、始業ベルがなった。 気が緩んだらしい琉夏くんの腕の力が抜けた瞬間に私はパッと離れた。 琉夏くんは一瞬残念そうな顔をしたけど、すぐに笑顔になって、また手を繋ぐように促す。恥ずかしさを誤魔化すように手を重ね、私たちは屋上を後にした。 * * * 「美奈子、今度の日曜日さデートしようよ?」 琉夏くんは私をデートに誘うとき必ず私が一人でいるときに、そして…教室でもどこでも、まわりに聞こえるようにして誘ってくる。 「日曜日? う、うん別にいいけど……そういうのは、出来れば電話かメールで言ってくれないかな? みんな見てるし…ね?」 ほら、琉夏くんファンのちょっと派手な女の子たちが怖い顔で私たちを見てる……正式には私を…。 「ヤダ。だって、メンドクサいじゃん? それに、せっかくオマエが近くにいるんだから、顔見て話したいんだ……ダメ?」 「ダメ…じゃないけど……でも…」 「じゃあ、ノー・プロブレムだ」 また、そうやって顔を近付けてくる琉夏くん。 恥ずかしくないのかな? 私は…嬉しいけど恥ずかしいよ/// * * * デート先は琉夏くんの希望で遊園地。 私は朝早く起きて、お弁当を作ってきた。琉夏くんが大好きなタラコのおにぎりをいっぱい。 遊園地に着いて、まず乗ったのはメリーゴーランド。 白馬に跨がる琉夏くんは、まるで本物の王子様みたいで、見ていてドキドキしちゃった。 「美奈子、どうかした? 顔赤いよ?」 「な、なんでもないよ!!」 ただでさえ、見惚れて赤くなってるのに、琉夏くんは私の顔を覗き込んで心配してくれるから、また私の顔は熱くなった。 その後はゴーカートに乗って、シューティングゲームをして、太陽が真上に昇る頃に琉夏くんのお腹が盛大鳴ったから、近くのベンチでお弁当を広げた。 * * * 「美奈子、俺に食べさせて?」 そう言って、口を開ける琉夏くんに私は固まった。 なに言ってるの!? こんなに沢山の人がいるのに、そんな恥ずかしいこと…出来ないよ/// そう伝えたら「じゃあ、俺がオマエに食べさせてあげる。ほらアーンして?」って言いながら、からあげを私の口に近付けてきた。 拒否しても「食べないの? からあげちゃんとチューしたい?」とからかうだけで、やめる気はないらしい。 こうなったら琉夏くんは絶対に引き下がらない。だから、意を決して口を小さく開けた。 「いい子だね。はいア〜ン」 * * * もう、あと30分もすれば日は西に沈み始めるだろう。 「次が最後だな。なに乗りたい?」 「う〜ん。じゃあ、観覧車に乗りたいな?」 「OK。行こう」 * * * 観覧車に乗り込んで数分、街を見下ろして、知ってる場所を見つけて私たちははしゃぐ。 「私の家も見えるかな?」 私が自分の家を探すのに夢中になっていたら、観覧車が少し傾いた。「えっ?」と思った瞬間、いつの間にか向かいから私の隣に移動してきた琉夏くんに抱きしめられていた。 「ちょっ、琉夏くん!? これじゃあ外見えないよ?」 「だったら外より俺を見ればいいだろ…」 一瞬、甘いムードに流されそうになるけど、すぐ恐怖に駆られた。 観覧車の窓はスモーク仕様じゃないから、外から丸見えになってしまう。下からは見えなくても、前後に乗ってる人に見られるかもしれない。 「ダメ、ダメだってば! 見られちゃうから!!」 「いいじゃん。見たい奴には見せつけちゃえば」 「そんな恥ずかしいこと出来ないよ///」 両手を伸ばして必死に間合いを死守すること数分…同様に必死に力を入れていた琉夏くんから力が抜ける。 わかってくれたのか…と、ホッとしたのものの琉夏くんの表情を見て、私は固まる。 琉夏くんは、何を見るでもなく景色を見てる。 名前を呼んでも「なに?」と目も合わせず、短く返事するだけ……。 「……オマエは俺のこと嫌いなの?」 無言のまま、何分かが過ぎた頃、視線は外に向けたままだけど琉夏くんがやっと自分から口を開いた。 「……そんなことないよ///」 「じゃあさ、なんでいつも嫌がるの?」 「えっ?」 「いつもそうだ。俺が手を繋いでも嫌そうだし、キスしようとしてもはぐらかしてばっか…。オマエからは何もしてくれないし、美奈子は俺のこと嫌いなんだ」 もしかして… 「違うよ。琉夏くんのこと嫌いなわけないでしょ?」 「ちゃんと言えよ。俺、頭イカレてるからちゃんといってくれないと、わからない」 …やっぱり拗ねてるんだ。 「琉夏くん」 まだ、そっぽ向いてる琉夏くんの背中に呼び掛ける。 「琉夏くん」 「……!?」 「……好きだよ。ホントに。琉夏くんのこと大好き」 大きな背中に抱き付いて小さな声で呟く。でも狭い空間では小声は意味を成さない。 「ホント? 本当に俺のこと好き? 愛してる?」 「うん/// だから、こっち見ないでね? 恥ずかしいから……/// いつもね、琉夏くんが手を繋いでくれたりするの凄く嬉しいんだけど、恥ずかしくてしょうがないの…」 「うん、わかってる。俺、オマエが恥ずかしがり屋なの知ってるのに…ごめんな?」 「私こそ、もっと頑張るから」 「いいよ。恥ずかしがり屋な美奈子も可愛いから」 ほんの数分のケンカと仲直り。勇気だしたんだもん。もう、しばらくこのままで…… 「美奈子、いいの?」 「なにが?」 「地上に帰還したみたいだよ?」 慌てて背中から顔を上げたら、観覧車に乗るために並ぶ客が目に入った。 * * * 「オマエのさっきのびっくりした顔、超可愛かった!」 「どうしよう、見られたかも///」 「見られた見られた! 俺たちのラブシーン超見られてた!!」 恥ずかしすぎる!! また顔が赤くなるのがわかるから、それを隠すように両頬を両手で覆う。 そして、さっきの自分の言葉を思い出した。 ―「もっと頑張るから」― 琉夏くんはお弁当箱や水筒が入ったバッグを持ってくれてる。 それは右手で持たれていて…左手はブラブラ持て余してる。 私は無意識に、その左手に右手を伸ばしていた。 「…美奈子?」 「手、繋いで帰りたいなぁ…なんて、頑張ってみたんだけど……ダメ?」 「いいよ。美奈子、レベルUPだな」 「ふふっ。ちょっとずつだけどね」 純情恋歌 END 〜あとがき〜 32000hit・キリ番を踏まれた紫音様に捧げます。 大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでした!! 一部、シリアスな感じになっちゃってリクエストに応えられていないのではないかと不安です。 手直し、書き直し、ドンと来い!! なので、ご希望に沿えていなかったら遠慮なく言ってくださいませ。 リクエストありがとうございました!! お持ち帰りは紫音様のみでお願い致します。 里夏
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