*捧げ物【文】* | ナノ



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まだまだ寒いけど、陽射しはだいぶ暖かくなってきた今日この頃。
話題は玉緒先輩から投げ掛けられた。共に在学している一流大学内にある広い食堂、その窓際に座り、日課となってる玉緒先輩との昼食の時間。

「イメチェンですか?」

「うん。イメチェンって言っていいのかわからないけど……以前、花椿さんにも本屋で指摘されて……ほら、君もそこに来ただろ?」

脳裏にあの時の光景が再生される。
ショッピングの帰りに寄った本屋さんで遭遇した意気込むカレンさんと困り顔の玉緒先輩。逃げるように帰っていった先輩の背中を私の脳裏ははっきりと覚えている。
玉緒先輩の話によると、その時だけではなく、自身のお姉さんにも服装の指摘をよくされてるみたい。
あまりに言われるから、気になってきてイメチェンしたいんだって……。

「僕はファッション雑誌も買わないし、そういうの疎くてね。君なら詳しいと思って」

*
*
*

この日は生憎の曇り空。食堂内は暖房が効いていて暖かいが陽射しがない分、どこか寒々しい。天気予報によれば夕方からは雨が降るらしい。週末の天気が悪いことを嘆く声が私の耳にもちらほら聞こえてくる。

「こういうの先輩なら似合うと思うんです」
「ちょっと派手じゃないかな?」
「じゃあ、こっちは?」

家から持ってきた女性用のファッション雑誌に掲載されてる男性芸能人のインタビューのページを見ながら、私なりの提案をしてみる。

玉緒先輩が新名くんみたいな格好をするとは思えないから、ある程度大人しい感じの服を選んでるんだけど、抵抗があるみたい……。
話が進まない。どうしたら、いいんだろ……。

「……玉緒先輩、覚えてますか? 高校生のとき、テレビの企画で大変身したときこと……」
「ああ……あの時はどうしようかと思ったよ」

眼鏡を外し、髪はウォータリーワックスで遊ばせて、レザージャケットを羽織った先輩は見惚れるほど素敵だった。

「あの時の髪型とか服装、すごく似合ってたじゃないですか!! あの感じでいきましょう!! 先輩、コンタクトできますか? まずはコンタクト作りましょう!!」

強行手段に出る訳ではないけど、こうやって話してるだけでは先に進まない。
明日は日曜日。ちょうどデートの約束がある。行き先はまだ決まってなかったから、この際ショッピングモールにしよう。あそこなら雨が降っても問題はない。眼科もコンタクトレンズのお店もある、ついでに服を見てこよう。

*
*
*

「いただきます」
「いただきます。……美奈子さん、寒くない?」

一昨日の夕方から降りだした雨はそのまま日を跨いで降り続けたが、翌日の昼には降り止み、デートの行きは必要だった傘も、帰るときには差す必要がなくなった。
今日は雨の可能性はなく、地面も乾いているが、昨日に引き続き曇りらしく日中でも肌寒い。

「……寒いです……」
「ほら、やっぱり食堂に戻……」
「戻りません」

膝の上に置いたお弁当を見つめるも、頭の中にはさっきの光景が嫌でも過ってモヤモヤする。

月曜日のお昼、私たちはいつも通りに食堂で待ち合わせをしていた。
先に着いた玉緒先輩から「いつもの窓際の席にいる」とメールが入ったから、お弁当を持って急いで玉緒先輩の元に向かってみたら……少し離れた場所からでも、“雰囲気の変わった玉緒先輩”が女性たちに囲まれてるのが見えた。

「ホント、ビックリしちゃった〜。紺野くん、凄い似合う!!」
「うん、超イケメン!!」
「日曜日になにがあったの〜?」

挙句にそんな声が聞こえてきた。先輩の隣や前に陣取る女の人たちには見覚えがある。
まだ私が高校生だった頃、すでに大学に入学していた玉緒先輩に連れられて入ったこの食堂で会った人たち。

先輩は女性陣の黄色い声に困ったように笑ってる。


“急ですみません。今日は外で食べたい気分なのでテニスコート脇のベンチに来てください。待ってます。”

そんなメールを先輩に送信して私は食堂を後にした。

* * *

周りを見ても、外で食べてる生徒は数えるほどしかいない。

「美奈子さん、どうかな? 自分で髪の毛、やってみたんだけど……やっぱり慣れてないから難しいな。昨日、君がやってくれたみたいに上手くはできなかったよ」

「……そんなことないです。うまく出来てます……」

顔を上げて、視線をお弁当から隣に座る先輩に向ける。
服装はまだ変わらないけど、眼鏡を外し、髪型を変えた先輩はそれだけで随分と雰囲気が変わった。女子生徒たちが囲んで騒ぐ気持ちもわかる。

「そう? なら、いいんだけど……」
「はい……先輩、モテモテですもんね。イメチェン大成功です。でも……もう、それくらいで十分だと思います」
「……えっ?」

髪型と眼鏡であの状態なら……服装まで変えたら、先輩を取られちゃいそう……

「あぁ、さっきの見られてたんだ。恥ずかしいな、ハハハ。あ、もしかして、だから移動しようって言ってくれたの?」

返事はしないで、お弁当を食べ始める。
嫉妬をしてるのを見透かされたようで、どう反応していかわからなくなった。

「……大丈夫。僕は美奈子さんだけのものだから」
「……先輩はズルいですね」
「そう? 僕の方こそ君には敵わないよ」


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―素敵です。でも、あんまりかっこ良くならないでくださいね。私はどんな先輩でも大好きですから……―



END

〜あとがき〜

130000hitの匿名様に捧げます。
お待たせしました!!
リクエストのラブラブ要素がやや足りないかもしれません……あわわわ、すみません。玉緒先輩はおっとりして理性的なイメージが強いのでそのあたりの加減が難しいです。もっと精進したいと思います。

モブを出すのはどうかと思いましたが、流れ的に必要だったので登場させました。
個人的に私は一流大学のあのモブ女生徒たちが苦手でして、それで今回こんな扱いに……ゴニョゴニョ

リクエストありがとうございました!!

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