*捧げ物【文】* | ナノ



蝶々結びの赤い糸


「あれ? 琉夏さん、珍しいっスね? 放課後に会うとか」

「なんだ、ニーナか残念」

「なんだ…って、残念……って、そんな落胆されても……なんか逆にスイマセン……。そだ、もしかしなくても尋ね人は美奈子さんっスか? あの人なら教室にいると思いますよ。用事あるからって、下校の誘い断られちゃったし」

「マジで? サンキュー、ニーナも役に立つね。また会おう!」

「……あっ、琉夏さん、ポケット……って、もういないし……オレの先輩って人の話聞かない人、マジで多すぎじゃね?」

*
*
*

階段を昇りきったところで、一呼吸。
美奈子の前にはクールに参上しないとね?

深呼吸した後に美奈子の教室の扉を少し開けて、中を覗く。微かな音に反応して振り返った美奈子と目があった。

「やっぱり、琉夏くんだ」
「そう、琉夏くんだよ。ん? やっぱり?」

美奈子がクスクスっと笑って廊下を指差す。

「ガラスに映ってた」
「ドッキリさせようと思ったのに逆にドッキリさせられた感じ?」

美奈子の席の前の席に後ろを向いて座る。

「さっきさ、ニーナに会った。美奈子は教室にいるって教えてもらったんだ。今日は部活休み?」
「うん。不二山くんが急にバイト入っちゃってね。それで、さっき新名くんに会ったからそのこと伝えたの」
「……でさ、ニーナに誘われたってホント?」

急に深刻な声出したからかな?美奈子がキョトンとしてる。うん、花丸のかわいさ。

「下校のことかな? 今日、当番だったから日誌書かないといけなくて」
「珍しいね。オマエ、いつも下校前には書いてなかった?」
「カレンさんとミヨとおしゃべりしてたら、盛り上がりすぎちゃって」

照れ隠しにエヘへとか笑うの反則///

「そういえば、琉夏くん。なにか用だった?」
「一緒に帰ろうかな……って。ダメ?」
「フフフ、いいよ。でも、これ書かないと帰れないから、もう少しだけ待っててもらっていい?」
「うん。俺、いつまでだって待ってる」

* * *

美奈子の字は女の子らしい、わずかに丸みを帯びたキレイな字だ。
よく女子にありがちな無理に媚びた感じがない、その文字は“美奈子という人間”を実によく表してる。

俺の字とはまるで違う。

「……そんなに見られたら恥ずかしいね? フフ」
「気にしないで? 見てたい気分なんだ」

―オマエは文字を書いてるだけだけど、オマエがそんな風にサラサラと何かを書く姿を見てるだけで、こんなにも気持ちが安らぐんだ―

* * *

パタンと日誌が閉じられる。

「終わった?」
「うん、後は職員室に行って大迫先生に…あ」
「? ……どうかした?」

美奈子が俺にそっと手を伸ばす。

「琉夏くん……ほつれてるよ? ほら、ここ」

美奈子が触れた箇所をちょっと引っ張って、自分でも見るようにしてみた。

「あ、ホントだ。今日、木に登ったときに破れたのかも」
「木に登ったんだ……琉夏くん。上着、脱いで! 今、縫っちゃうから!!」

美奈子はすぐに化粧ポーチの中から小っちゃな裁縫道具を取り出して、俺に「上着、貸して」と手の平を見せる。
俺のために縫ってくれる……それが、なんだか嬉しくて、すぐに上着を脱いで美奈子に渡す。

「お願いします」
「お任せください」

失敗することなく、針に糸を通して美奈子は迷うことなく縫い始めた。
丁寧に、だけど、すばやく……糸が通された針が俺の制服から出たり入ったりをリズミカルに繰り返している。

目線を縫われる制服から、縫う美奈子に移した。

伏せられた目、長いまつ毛、針を器用に扱う白い手。

さっきも思ったけど、美奈子の動作一つ一つにどうしようもなく惹かれる。
この気持ちをどう伝えればいいのだろう? どう、言えばオマエは微笑んでくれるかな?

こんなとき、上手く言葉にできない自分が恨めしい。

「オマエはさ……なにをしても絵になるね。今度、オマエをモデルに絵でも描いてみようかな?」

とっさに出た言葉……いつも心に思い描いてるんだから、間違いじゃないな。

「フフフ、ありがとう」

よかった。笑ってくれた。


「はい、出来たよ。補強しておいたけど、また破れちゃったら言ってね? 直すから」
「すげー、ぜんぜん目立ってない! うん、今度は気をつけよ」

美奈子が針をケースに仕舞う。

「ねえ、こっちの糸、ちょっとだけもらっていい?」

これから片付けられる裁縫道具の中の糸を手にして訊いてみる。

「いいよ? ハサミ、気をつけてね」
「ありがと」
「なにするの?」
「秘密。でも。すぐにわかるよ。ちょっと待ってて」

糸を30cmくらいに切って、端から自分に巻き付けた。

「ここ、蝶々結びして?」
「こうでいい?」
「そ。で、手を出して?」

今度は長く余った糸を美奈子の小指に巻いて、俺が蝶々結び。


蝶々びの


「今日はこのまま行けるとこまで帰ろ? 手を繋いで……な?」
「……うん///」



END

〜あとがき〜

110000hitのキリ番の踏まれた琉亜様に捧げます。

遅くなって申し訳ありませんでした。
リクエストの“甘いお話”になっているかがやや不安ですw

琉夏の心理描写を入れたら、少しシリアス寄りになってしまったような……

希望と違う場合、どうにか書き直しの余地がありそうなので返品してくださいヽ(´∀`;)ノ 対応します!!

お持ち帰りは琉亜様のみでお願いします。

里夏

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