*捧げ物【文】* | ナノ



桜の見える部屋で


一流大学に入学して2年。
今年の4月に3年生に進級する私は、この春から一人暮らしも始めることになっている。

実家より大学に近い場所に建つ2階建のアパート。築浅で内装も外装もキレイなそのアパートは一人暮らしの女性も多く、近くに交番もある安心の物件だった。

私が住むのは2階の角部屋。
アパートは小さな川沿いに面しており、土手には桜の木が沢山植えられている。
小さなベランダから外を見ると川と桜がよく見え、春には室内からもお花見が出来るらしい。


の見える部屋


高校時代より長い春休みの間中、私は散歩がてらちょっとした荷物を自分で運び込んでいた。お気に入りの本やDVD、ぬいぐるみ等。

広くはないアパートなので、実家にあるベッドや棚はそのまま置いておくことにした。
新しく購入した小さめの家具はアパートに直接運んでもらえるように手配しており、すでにアパートの内部にある。あとは組み立てたり、好きなように配置するだけ。

まだ越してきてはないアパートの鍵を開けて玄関に入るこの感覚がドキドキする。

*
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よく晴れた日曜日……私の一人暮らしがいよいよ始まる日。

この日は朝からコウちゃんに手伝ってもらって、最後の荷物を運び込んでいる。
衣服と、家電数個……これらをコウちゃんの車に乗せて、アパートまで運んでもらうのだ。

両親は今日は来ない。一人暮らし用のこじんまりしたアパートだ。ダンボールやら梱包材、片付けきれてない日用品が散乱してるような状態故に2人は後日に様子を見に来ることになっている。


2階建てのアパートにはエレベーターはない。

「コウちゃん、重くない? 持とうか?」
「重かねぇから、気にすんな。それより、前向いとけ。転がり落ちんぞ?」

重い荷物を持ってくれてるコウちゃんと一緒に2階の部屋を目指す。
ダンボールを重ねて持ってくれてる彼が階段から落ちるのではないかと心配しているのだが、当の本人は心配無用らしく、逆にチラチラと自分を振り返りながら歩く私の方が心配されてしまった。

* * *

重たい家具を2人で一緒に動かし、今日から必要な日用品をダンボールや紙袋から取り出して、設置したばかりの家具に並べた。
コウちゃんがカーテンを取り付けてくれてる。

クリーム色の布地に大きめの黄色やオレンジの花柄が可愛いカーテン。
取り付けられるカーテンをワクワクしながら見つめつつ、私は不要になった梱包材を纏める。

窓にカーテンが取り付けられると大分、生活感が出てきた。

「これでいいか?」
「うん、ありがとう!!」


まだ適当に置かれたままの時計を見ると昼の1時過ぎ。
ある程度は片付けられているものの、まだ料理をできる環境ではないから、二人で近所のコンビニにお昼を買いに行くことにした。

*
*
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コンビニはアパートから徒歩5分。
少し先にスーパーもあるから、コンビニ帰りに夕飯や明日の朝食用の食材や飲み物を購入した。

「もう一つくらい持てるよ?」
「あ? こんぐらいで俺がへばると思うか? ほら、とっとと帰んぞ」

お昼を食べたら、残りのダンボールを開封してもう一踏ん張り!!

* * *

「ここでいいか?」

配置しても、なかなかしっくり来なくて何度か本棚とテレビの位置を動かした。その度にコウちゃんが意図も簡単に模様替えしてくれた。

「うん、ありがとう。さすがコウちゃんだね?」
「あ……そうか? ま、鍛えてるからな」

コウちゃんが目を反らす。フフフ、照れてるんだ。

* * *

夜の7時過ぎにはほぼ、部屋は片付いた。
玄関には今日の引越しで出たゴミを纏めたゴミ袋やダンボールが纏めて置いてある。ゴミの日に出し忘れないように、カレンダーに印をつけておくのは忘れない。

軽いものしか作れなかったが、貴重な休みを使い引っ越しを手伝ってくれたコウちゃんを労い夕食をご馳走した。

食後には2人でテレビを見る。
そんな風に寛いでいるときだった……

「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ。鍵、ちゃんと閉めとけよ?」

脱いで近くに置いていた上着を手に持ち、コウちゃんがスッと立ち上がった。

「……えっ? 帰っちゃうの!?」

今まで、テレビを見て笑ってた私が、そんな素っ頓狂な声を上げたからか、上着に腕を通そうとしてるコウちゃんが目を丸くする。
「帰らないで」の意を込めて、服の裾を引っ張った。

「そりゃ、オマエ……マジかよ……」
「だって……」

今日から一人暮らし……わかってたことなのに、コウちゃんが帰ろうとした途端に不安になってきた。テレビに素直に笑えたのも、彼がいた安心感からだろう。
もう一度、裾をクイッと引っ張る。

「はぁ……わーったよ。だから、引っ張んな。伸びちまう」
「ホント!? コウちゃん、ありがとう!!」

立っているコウちゃんに合わせて、私も立ち上がり、彼が今しがた、着ようとして上着を脱がせて丁寧に畳んで、ベッドの上にそっと置いた。

「で、何時までいりゃ気が済むんだ?」
「え〜っとねぇ……明日の朝まで……かな?」
「……美奈子…オマエ、本当にこれから大丈夫か?」
「大丈夫……だと思うよ? コウちゃんがちょくちょく来てくれたら大丈夫!!」

こういう時、呆れながらも見放したりしないのがコウちゃんの優しいところ。

* * *

「おいおい、待て待て! なに寝ようとしてんだ!!」

カーテンと同じ柄のシーツで揃えたベッドに潜り込もうとしたら、テレビを見ていたコウちゃんに腕を掴まれ止められた。そのまま、コウちゃんの側に戻される。

「だって、もう12時だし……」
「今夜はオマエのわがままに付き合ってやんだから……オマエも俺のわがままに付き合うのが道理ってもんだろうが?」
「えっ……ヒャッ///」

腰を撫でられ、耳に息を吹き掛けられた。

「クク……寝れると思うなよ?」



END

〜あとがき〜

112000hitを踏まれたゆき様に捧げます。
お待たせしました!!

裏の有無はどちらでも可と言うことでしたが、流れ的に裏に持っていくと話が分散して、纏まりがなくなってしまいそうだったので、あえて“無”にしておきました。
もし、期待されていたらすみません。私の技量不足です。
で、ラストにちょっとだけ色っぽい感じを匂わせたのですが“これは15禁にした方がいいか?な”とも思いましたが、キスも何もないので制限無しにしました。

コウちゃんはSっぽいことを口走りながら、実際は無理させない男だと思います。

お持ち帰りは、ゆき様のみでお願い致します。

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