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夜空に咲いた夏の花


「凄い人だねぇ……はぐれないように気を付けなくちゃ」
「俺たちが高校生の頃は、もうちょっと空いてたのに……」

毎年8月第1日曜日に行われる恒例の“はばたき市 花火大会”
会場の臨海公園地区へは電車一本で行けるため、はばたき駅も人で溢れていた。

「琉夏くん、花凛、重くない? 代わろうか?」

琉夏に抱っこされている花凛はキョロキョロと人の流れを見ていた。

「平気。でもさ、ベビーカー、持ってこなくて正解だったな。オマエの“センケンのメ”はさすがだ」
「ふふっ、それを言うなら“先見の明”だよ?」
「まちがえちった」

*
*
*

臨海公園地区に着けば、道中を上回る人の波。

ここ数年、テレビや雑誌で紹介された“はばたき市 花火大会”は、二人が高校生だった頃よりも人が集まるようになっていた。

電車の中でウトウトしていた花凛も賑やかな会場に目を覚ました。
寝覚めが良い花凛はこういう場合も泣き出したりしない。父親似の目はすぐに色鮮やかな屋台に向く。

「花火、よく見れるといいんだけど……」
「そこは大丈夫。秘策があるからね」

片腕に花凛を抱き、「はぐれないように」と空いてる片手で美奈子の手を繋ぐ琉夏はそのまま人並みを縫って歩いていく。


花火の打ち上げ時刻まで、あと二時間はある。それでも、花火を間近で見れる一画はすで場所取りのために待っていた人やシートで埋まっていた。

琉夏に連れられて、シートとシートの間の僅かな歩行用の隙間を進むと前方に見覚えのある背中を確認できる。

「コウちゃん?」

一人、ピクニックシートの上に座っていた琥一は美奈子の声に、いつものニヒルな笑みを浮かべながら振り向いた。

「おっ、やっと来やがったな」

「コウ、ご苦労であった」
「うるせぇ」

琉夏から花火大会の話を聞き、仕事が休みだった琥一は早くから、場所取りをしていてくれたらしい。

「コウちゃん、ありがとう」
「どうってことねぇ。どうせ暇だったしよ。座ってただけだ」

琥一の隣に腰を下ろした琉夏は、琥一に手を伸ばして「コ〜、コ〜!!」とはしゃぐ花凛を琥一に預ける。

「花凛、似合ってんじゃねぇか?」

浴衣を着る琉夏と美奈子。同じように花凛も今日は赤ちゃん用の浴衣に身を包んでいる。白地にオレンジの模様入りのそれは、叔父の琥一からプレゼントされたものだ。

*
*
*

あたりはすっかり暗くなり、間もなく花火の打ち上がる時刻になろうとしていた。

シートの上には屋台で買ってきたスナックに飲み物が多数、それに花凛用のおもちゃが2〜3個転がっていた。

「ただいまより、打ち上げ花火を開始致します」

スピーカーからアナウンスが流れる。
すぐにヒューという音に続き、ドーンという大音量と赤や緑の閃光が臨海地区の夜空に浮かび上がった。

同時に観客から歓声が上がる。

「おい、花凛、怖がってねぇか?」

琥一はカメラを向けながら花凛を気にかける。

「ちょっと心配だったんだけど、大丈夫みたい」
「コウの大声の方が怖いって!!」
「大声出さないとかき消されっだろうが!!」
「ふたりとも、迷惑だから静かにして!!」

ヒューヒュー、ドンドンとひっきりなしに鳴り響く中、最初は美奈子にしがみついていた花凛も、しばらくしたら、キャッキャッとはしゃぎながら宙に手を伸ばすようになっていた。


の咲いた


「花凛、花火きれいだねぇ」
「あう〜」
「ね〜。来年も見にこよっか?」

花凛は笑いながら手をバタバタさせる。

「だってさ、コウ。来年も任せた」
「テメーでやれや」
「俺は美奈子たちのボディーガード、コウは場所取り班って決まってるだろ」
「勝手に決めんな」
「可哀想な花凛……コウがケチだから来年は花火無理かもしれないって……」
「……花凛出すのは卑怯だろ…クソッ」


END

〜あとがき〜

最終的に“琥一万歳”な内容になってた。


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