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7人のお子様


ある所にお母さん氷室と7人の子ヤギが騒がしくも、仲良く暮らしていました。

そんな、ある日のことお母さん氷室は街に出掛けることになりました。


お母さん氷室は子ヤギたちに言います。

「いいか、お前たち。私が帰宅するまで、誰が来ても扉を開けてはならない」

お母さん氷室は、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるルカとコウを一睨みした後、家を出ました。

「とくにコウイチ、ルカ。家の中で暴れたり、走ったりしないように」


7人の


厳しいお母さん氷室が出掛けた途端、みんな解放感からはしゃぎ始めてしまいました。

ルカとコウは家の中をドタドタ走り回り、そんな二匹を「もう! 走っちゃダメでしょ!!」と美奈子もドタバタと走って追いかけています。

ニーナはお母さん氷室が帰宅した際のイタズラの用意を始め、キッチンに向かったアラシは勝手に冷蔵庫や貯蔵棚から食べ物を取り出し、食べてしまってます。

セイジは騒ぐ兄弟たちにイライラしながらも、おもちゃのピアノを弾き始めました。

長男のタマオが先ほどから注意していますが、残念ながら誰も聞いてはいません。


* * *


みんなが、はしゃぎ疲れた頃“トントン”と扉を叩く音が響きました。

末の妹・美奈子がビクリとします。

「お母さんよ。開けてちょうだい」

お母さん氷室の“よく通るドスの効いた声と威圧的なしゃべり方”とは異なる“ガラガラ声と柔らかいしゃべり方”に子ヤギたちはすぐに、声の主がお母さん氷室ではないことを見破りました。

「しゃべり方が優しすぎる!!」

お母さんの振りをした狼は引き返します。


狼は、何でも揃う雑貨屋で蝶ネクタイ型の変声機を買い、再び家にやって来ました。
変声機の力で、お母さん氷室によく似た声になった狼に、子ヤギたちは戸惑います。するとコウイチが言いました。

「ドアの隙間から足、見せろや」

狼はコウイチに言われた通りに足を見せました。
ドアの隙間から見えた足は、お母さん氷室のキレイに磨き上げられた革靴とは似ても似つかない汚い靴……また、子ヤギたちは見破ったのです。


次に狼は靴屋に行き、新品の革靴を購入しました。変声機に革靴…狼にとっては痛い出費になってしまいました。


狼は三度、子ヤギたちの家に向かいます。
お母さん氷室そっくりの声、そしてキレイな革靴……子ヤギたちは扉を開けてしまったのです。

「お母さんだ。開けなさい」

タマオが扉を開けた瞬間、狼は牙を向き、子ヤギたちに襲いかかりました。可哀想に次々と丸飲みされる子ヤギたち……。

ルカとコウイチ、アラシは抵抗しますが、その小さな体では大きな狼に到底適わず、指一本で頭を押さえられてます。
そして、腕をグルグル回したり足をバタバタさせる3人もやがて狼のお腹に収まってしまいました。

狼を見た瞬間、とっさにルカとコウイチの手で柱時計の中に隠れさせられた美奈子だけは柱時計の中で震えながら、息を潜めまていました。


子ヤギを6人丸飲みにしたところで満腹になった狼は家を後にしたのです。


* * *


狼が出ていってしばらく、お母さん氷室が帰宅しました。
開け放された扉、ゴチャゴチャになった居間。
お母さん氷室の眉間にはくっきりとシワが寄ります。

「また、あの2人か……コウイチ! ルカ!! 出て来なさい!! 何度言えば…」

声を上げた瞬間、柱時計からゴトっという音が聞こえてきました。

お母さん氷室が柱時計を開けると美奈子が泣きながら丸まっていたのです。


* * *


泣きじゃくる美奈子を落ち着かせて、事の顛末を聞いたお母さん氷室は慌てることなく、何やら準備を始め、すぐに

「おまえも一緒に来なさい」

と美奈子の手を引き家をあとにしました。


* * *


しばらく行った所で、お母さん氷室は爆睡している腹の膨れた狼を見つけました。
美奈子が頷いたのを見て、お母さん氷室は持ってきたスーツケースからとても大きなハサミを取り出しました。

静かに近付きます。

そして、おもむろに狼の腹をザックザックと斬りさきました。

顔面蒼白の美奈子の目の前で、半ベソをかいたニーナが救出されたのを皮切りに、手際良く兄たちが狼の腹の中から救出されていきます。

最後に丸飲みされたショックで気を失い白目を向いたままのセイジが救出されました。


腹を裂かれたというのに、気付かない狼はまだ夢の中。
お母さん氷室はハサミを仕舞い、裁縫道具を取り出しました。
不思議そうに見つめる子ヤギたち。そんな子ヤギたちにお母さん氷室は一瞬、不適な笑みを浮かべると……狼の腹に次々と大きな石を詰めたのです。

美奈子とニーナが顔面蒼白してるのを気にせず、お母さん氷室は石を詰めます。子ヤギたちも真似して石を詰めます。

あっという間に、狼の腹は先ほど子ヤギたちを収めていた程の大きさに膨れました。


そして、お母さん氷室は先ほど取り出した裁縫道具で、素早く狼の腹を縫合したのです。

「さぁ、家に……待ちなさい! ルカ、コウイチ!! 走るんじゃない!!」

先ほどまで丸飲みにされていたとは思えぬテンションで走り出したルカとコウイチを追い掛けながら、お母さん氷室と子ヤギたち親子は仲良く家に帰りました。


* * *


喉の渇きに目を覚ました狼は、ヨロヨロと井戸に向かいました。

そして、井戸を覗き込んだ瞬間、腹の重みによろけた狼は井戸の中に転落したのでした。


*お わ り*

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