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家庭菜園を始めよう!!


「で、トマトの種貰った」

花屋のお得意さんのおばあちゃんが家庭栽培で食を切り盛りしてる話をしていたのが三日前。

興味を示した俺に、「ルカちゃんも試してみなさいな」とトマトの種をプレゼントしてくれたのが今日。


「なるほどなぁ。どうせならトマトそのままくれりゃ楽なんだけどな」
「そう言うなよ、コウ。今が種の蒔き時だって」

琉夏が琥一に種を渡す。

「人に押しつけてんじゃねぇよ。おら、てめぇもやれ。植物に関しちゃオマエのが専門だろうが」
「そうだな。コウに任せたらガソリン撒いちゃうかもしれないもんな」
「しねぇよ!!」



家庭めよう!!



「で、West Beachで家庭菜園始めたんだ」
「そっか、楽しみだね。でも海風とか大丈夫?」

昼休み、琉夏は美奈子にお弁当を分けてもらいながら、トマトの家庭菜園の経緯を語っていた。

―これまでのお弁当のお礼は収穫したトマトで払うから安心して?―


「あぁ、それなら大丈夫。100均で突っ張り棒とビニール買ってきた」
「???」
「こんな感じで……」

琉夏は携帯を取り出すとすぐにカチカチ動かす。

「コウがちっこいビニールハウスみたいの作ったんだ。題して“トマト姫の守護神”だよ」

美奈子が差し出された携帯画面を覗き込むと、そこにはビニールハウスのようなものが2棟、写っていた。

突っ張り棒数本がビニール紐やガムテープで器用に組み立てられ、そこに本来ならテーブルクロスに使用されるのであろうビニールが、ガムテープの力でビニールハウスのような形に形成されていた。

ビニールハウスの後ろには琥一のものと思われる脚も写っている。

「凄い。コウちゃん器用だね!!」
「俺も手伝ったんだよ? エラいでしょ」

「テメェは突っ張り棒で邪魔してきただけだろうが」

「あっ、コウ」
「あっ、コウちゃん。お昼食べた?」
「あぁ、適当にな」

美奈子の隣に琥一がどかりと座り込んだ。

「今ね、琉夏くんから家庭菜園の話を聞いてたの」
「……らしいな。つーかよ……オマエら、もちっと小せぇ声で話せ」

「「なんで?」」

「はぁ? なんでって……そりゃ……高校生が家庭菜園とかダセェだろうが?」
「そうかなぁ?」
「美奈子、コウはカッコつけだから仕方ないんだって。ププっ」
「あぁ!? やんのかコラァ!?」
「やってるだろ? 家庭菜園!!」

茶化して逃げ出す琉夏を追い掛ける様に琥一も走り出す。

美奈子は慌ててお弁当箱と水筒をランチバックに詰め込むと兄弟を追って走り出した。

*
*
*

―あれから数ヶ月後のとある日曜日―

美奈子はWestBeachに来ていた。トマトが収穫できたらしい。

ダイナー一階のカウンターには、やや歪な形のトマトたちが入っているカゴが置かれていた。
その隣には布巾が掛けられてるカゴもある。こちらにもトマトが入ってるようだがハッキリとは見えない。

「凄いね! 初めてなんでしょ? それなのに、収穫までできるなんて凄いよ!!」
「おぉ、まぁな。でも、家庭菜園ってやつは肥料だなんだで結構、金も手間も掛かりやがるな……」
「美奈子、はい。美奈子にはこのトマトを進呈しよう」

琉夏に差し出されたビニール袋の中に入っていたのはカゴの中にあるのと同じ歪なトマトたち。

「形はあんまよくねぇけどよ、味は悪くねぇから安心しろ」
「ふふふ、ありがとう。ところで……」

美奈子が布巾が掛けられたカゴを指差す。

「あれもトマト?」
「あぁ、アレね……アレは……ねぇ?」
「おぉ、アレ……だな」

兄弟が顔を見合わせる。

「安心して。オマエにあげたトマトはコウが作ったやつだから……」
「こっちのは、ルカが作ったやつだ……これがまた……」
「なんて言うかさ、ちょっとおかしいんだ」

琉夏が美奈子の元にトマトの入ったカゴを持ってきて布巾を外した。

「……これは、うん。何かがおかしいね?」
「だろ? 味もヤバいんだ……トマトじゃない別の何かでさ。本当は美味しいトマト作れたら、俺のを美奈子にあげるつもりだったのに……ゴメンね」

琉夏が作ったと言うトマトは形容しがたい奇妙なものだった。

「もしかして、コウがガソリンを……」
「撒いてねぇよ!!」



END


〜あとがき〜

“形容しがたいおかしいトマト”は各々の想像にお任せします←

里夏

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