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走れ! 青春の波打ち際!!



青い空、白い砂浜、そして青い海!!

6匹のポケメンたちと旅を続ける美奈子はリゾート地として有名な“ウエストビーチ”に来ていた。

ルカ、コウ、アラシ、ニーナの4匹は光る海を見つめている。今にも走り出しそうだ。

「私、水着に着替えてくるから先に遊んでてね。危ない遊びはしちゃダメだよ?」

美奈子は6匹にそう言うと一時離脱した。


* * *


「ちょっ…待て! 置いてくなよ!!」

ハシャいで走り出すルカを追うコウ、それを追うように走り出す面々。
セイジも走ってるのだが、ヨタヨタしてるので遅れてしまっている。

「だったら、それを脱いだらどうだい?」

コンノが指摘する「それ」とは…セイジが4本の足に履いている子供用のビーチサンダル。
海に到着した際に美奈子に強請って買ってもらった物だ。

「浮かれた観光客が砂浜にゴミとか捨てたりしてたらどうするんだよ!! 俺の肉球に傷が付くだろ!?」

そう言って立ち上がるセイジ。
浜辺を見渡しても、観光客のマナーがいいのかゴミなど落ちていないのだが、いつもの神経質な面が出ているのだろう。


「だったら、肉球を鍛えればいいんじゃないっすか?」
「……はっ?」

足を止めたアラシの意見にセイジは顔をしかめる。

「いいね。みんなでセイちゃんを鍛えてあげようよ」

ルカが賛同すると、アラシはコウの方を向く…

「かえんほうしゃ使えるようになったんだろ? あれで…ここを……」

アラシは1m×30cmほどの長方形を砂浜に足で線を引く。

「…熱してくれ」
「んなもんテメェでやれよ。メンドクセー」
「仕方ないだろ。今はおまえしか炎技使えないんだから。俺も出せればいいと思って、特訓してるけどさっぱりだ」

アラシは深刻な顔をして腕を組む。

「まだ、あんな特訓してたんだ…アイツ……」
「オレがいつも特訓相手させられてるんスよ。かえんほうしゃに10まんボルト、あとサイコキネシス、れいとうビーム……」

呆れるルカに、ニーナは苦笑いで告げる。

「いつか出来るようになるかもしれないだろ? テレビで『諦めたらそこで試合終了ですよ』って丸っこい偉い先生も言ってたぞ」

今のうちに…と逃げ出そうとするセイジ。
しかし、すでにルカに捕まっていた。

「ほら、セイちゃん。鍛えれば“綿毛のモヤシ”なんて言われなくなるよ?」
「そんな悪質な陰口叩いてるのは、おまえらだけだろ!? 離せ!!」
「ルカくん、無理強いは良くないよ!!」

掴まれた腕を振り払おうとブンブン暴れるセイジ。
そんなセイジの腕を笑いながら掴み、引っ張るルカ。
コンノは2匹を見てオロオロするばかりだ。


「もう、危ないことしちゃダメだよって言ったでしょ?」

コンノの体がフワリと浮いた。

「「「美奈子(さん)」」」

ルカはセイジの腕を離し、美奈子の足に抱きついた。

「ビキニ…超可愛い!!」
「フフフ、ありがとう♪ …で、なにしてたの?」

抱き上げたコンノと足元に集まった5匹に問いかける美奈子。

「こいつらが俺の肉球を火炙りにしようとしたんだ」

セイジは即座に告げ口をした。

*
*
*


「次、ケンカしたり、まわりに迷惑かけたりしたら……丸一日ボール入りの刑だからね?」

美奈子からのお説教の後、6匹には再び自由時間が与えられた。

いつものアクティブなルカ、コウ、ニーナが海に走ろうとしたその時。

「待て! 海に入る前には準備体操しないとダメだろ!!」

アラシの大声に3匹は固まった。

「テメェだけでやってりゃいいだろうが。行くぞルカ」
「ラジャー☆」
「オレも、ちょっとパス? こんな場所であんな体操、恥ずかしいし〜」

「…わかった。……美奈子!! こいつらが…」

美奈子が無言でボールを取り出したと同時にルカとコウがアラシの口を押さえにかかった。

「卑怯なマネしてんじゃねぇぞ!!」
「アラシさん、美奈子ちゃんを使うとかズリィし〜」
「卑怯でもズルくても、準備体操しなきゃダメだ。ほら俺が手本見せてやるから」

しぶしぶ砂浜に並び、準備体操をする3匹と張り切る1匹。
その姿はなんとも微笑ましく、まわりの観光客は立ち止まって3匹+1匹を眺めていた。


* * *


「ふたりは海に入らないんですか?」

美奈子が同じパラソルの下でくつろぐ、コンノとセイジに尋ねれば揃って「アウトドアは得意じゃない」という意見が返ってきた。

「そっか、ジュース飲みますか?」
「ありがとう。いただきます」
「貰ってやってもいいが、果汁100%じゃなきゃイヤだからな」


* * *


ニーナが見つめる海面からアラシがザバンと顔を出した。ブルブル頭を振る。

「アラシさん、パネェ!! 一分は潜ってたんじゃないっスか!?」
「まぁな。おまえも、やってみろ」
「無理ですって!! 第一、髪型崩れるし…」

ニーナはそう言って、トサカのような前髪に触れる。

「男が、そんなこと気にすんな」
「ちょ…ギャッ…アラシさ…ワプッ!?」

ニーナは強制的に沈められた。


* * *


「コウ、蟹いた?」
「いや、シジミの一つも出てこねぇ」

兄弟は砂を掘りながら、愚痴る。

「…おい、ルカ。アレ見ろ」

コウの視線の先を見れば、観光客と思われる若い2人組の女性が、それぞれ“イカの丸焼き”を手に持っていた。あれは焼き立てで、これから食べるのだろう。

「いいな…俺、腹ペコ」
「俺もだ。だからよ…ひさしぶりに“アレ”やってこい」
「……ラジャー」



普段はスタスタ歩くルカは若干、覚束ない足取りを装い女性たちの前を横切る。
そして、わざと転んだ。

女性たちが転んだルカに気付き「あっ」と声を上げる。

それを聞き、「エ〜ンエ〜ン、エ〜ン」 と口で言いながら手で顔を覆い、嘘泣きを始めたルカ。
女性たちは遠慮がちにルカに近付き「…大丈夫?」と声を掛ける。

目の前で転び、いつまでも泣き(嘘)止まないルカを放っておけない女性たちは困り果て、ついに、コウの思惑通りに「食べる?」とイカを差し出した。

ルカはチラリと小さな指の間から顔を覗かせる。

「これあげるから、もう泣かないで?」

ルカはコクリと頷き、笑顔を見せた。
女性たちに安堵の表情が浮かぶ。


* * *


ルカの可愛い笑顔にメロメロになった女性たちはイカだけでなく、ルカにお菓子まで与えた。

「バイバ〜イ」と手を振る女性たちに小さな手を小さく振るルカ。その両手は食べ物で塞がり手を振るのも大変そうだ。

「はい、コウの分のイカ」
「ほぉ、大量だな…ククッ」

イカを受け取り、悪そうな笑みを浮かべるコウ。

「駄菓子もあるよ。ほら、うめぇ棒だ。俺、めんたい味貰うから、コウはサラミ味な」

* * *

「「うめぇ…あっ」」

イカと駄菓子で腹を満たしたルカとコウの視界に波打ち際を歩く美奈子の姿が映り込んだ。
よく見ると美奈子の足下にはコンノとセイジも歩いていた。顔を見合わせるルカとコウ。そして頷き合うと…波打ち際に走り出した。


* * *


「海風が気持ちいいな〜」

美奈子は呟きながら、体を軽く伸ばす。

「毛が潮でベタつく」

セイジは不快そうに顔をしかめながら、自分の毛並みに触れる。

「センターに戻ったらシャワーに入ればいいよ。それとも、帰る前に海の家でシャワー借りる?」

コンノはセイジの悪態に苦笑いしている。

そのとき、バシャン!!
という水音が響いた。

「「!!??」」

美奈子とコンノが慌てて振り向くと……いるはずのセイジの姿がなく、変わりにいなかったはずのルカとコウがニヤニヤして佇んでいた。

「あれ……??」

今度は静かなバシャという音が聞こえ、美奈子とコンノが海を見れば……濡れて恐ろしくボリュームのなくなったセイジが呆然と立っていた。

「「ギャハハハハハハ!!」」

濡れたセイジを見て、大爆笑するルカとコウ。ルカは指を差し、コウは腹を抱えている。

「……今、一瞬の間に何があったんだい?」

コンノが怖ず怖ずと兄弟に訊けば、ルカは器用に笑うのを止めた。

「セイちゃんが海と仲良くなれるように背中を押してあげたんだよ」

「「…………」」

「なにが“背中を押した”だ!! 背中に跳び蹴りしただけだろ!?」

ケラケラと笑って逃げ出したルカとコウを怒り狂ったセイジが追う。

「待て、おまえら!!」
「ハハハ!! セイちゃん、ガリガリ君♪」


* * *


美奈子がコンノと共に走り回る3匹を見つめていたら突然、ふくらはぎをツツかれた。

足下を見れば、美奈子を見上げたアラシとニーナが満足げに立っていた。

「ただいま美奈子。これ、海の中で捕まえたからやる」
「俺からも美奈子ちゃんにお土産♪」
アラシは背負っていた“自らの体の何倍もある巨大な魚”を揺する。
ニーナも海藻の塊らしきものを美奈子に差し出した。
恐る恐る塊を手に取る美奈子。海藻を編んで作られた袋の中には沢山の貝が入っていた。

「マグロと格闘するアラシさん、マジパネェの!!」
「これ、マグロなの!?」

美奈子が改めてアラシの背負う魚を見れば、確かにそれはマグロだった。

「本当にマグロみたいだね。凄いなぁ……でも、捕ってきて良かったのかな? 密漁なんじゃ……」

コンノがアラシの背後に回り、興味深げに調べる。「……ルカさんたち、なんで走ってるんスか?」

ニーナがそう言いながら、不思議そうに走る3匹を見つめていた。

「……あれは、ルカがね…セイジを海に蹴飛ばし……」
「わかった!! 青春してんだなあいつら!? オーサコ博士が『夕日に向かって走ることが青春の形』だって、言ってた」

ルカとコウの“悪ふざけ”を“青春”だと過大解釈したアラシは目をキラキラさせる。

「ニーナ、俺たちも走るぞ!! 着いてこい!」
「ちょっ、マジで!? アラシさん体力マジパネェ!!」

オレンジ色に染まり始めた波打ち際を走りだす2匹。

ふと視線をずらせば、セイジが息を切らせてダウンしていた。濡れた毛が乾きだしている。

「セイちゃん大丈夫?」
「……だ…だいじょうに、見える…か? うっ、肉球が痛い……」
「慣れないビーサン履いてたからだろ。情けねぇなぁ……ほら、ルカ。セイちゃん背中に乗せろ」


コウの背中に乗せられたセイジをルカが落ちないように支えて、美奈子の方に歩いてきた。


「なんだかんだで仲良いですよね。あの子たち」
「本人に言ったら、キレるだろうね」


「みんな、センターに帰るよ〜!!」



れ!
青春打ち!!



END

〜あとがき〜

だんだん、ルカは当たり屋かエモンガ(ポ○モンBW)のように、アラシはジャイアン(ドラ○もん)のようになってきた……。

里夏

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