*Main* | ナノ




今日から、キミの名は

愛妻弁当を食べていたらメールが届いた。

来たっ…!!

緊張し過ぎて弁当箱をひっくり返しそうになる。

朝、出勤する際に「結果がわかったら、メールするね」って美奈子に言われた。
そして、今届いたメールの着信音は美奈子専用…間違いなく美奈子から。

*
*
*

仕事が終わると同時に急いで帰宅した。

玄関の鍵を開けるという慣れた作業でさえ慌てているから、なかなか上手く開けられなくてまどろっこしい。
扉を蹴り飛ばしたい気持ちを抑えて、やっと扉を開けて家に飛び込めば美奈子が「おかえり」って笑顔で俺を出迎えてくれた。

「ただいま」って返事して、美奈子に駆け寄れば…どう声を掛けていいかわからなくる。

「あの…あぁ…本当? 先生が“いる”って言ったの?」
「うん! 赤ちゃん、8週目だって!!」


「そっか…俺、パパになるんだ…」

美奈子と俺の赤ちゃん…俺の子が美奈子のお腹にいるんだ。
スッゴイ嬉しくて、それでいて胃がフワフワ浮くような不思議な気持ちになる。



※ ※ ※ ※


数日前から、美奈子の体調が優れなかった。

身体が怠いみたいで、あまりご飯を食べてなかったし、微熱も続いていた。

美奈子は「大丈夫だから、心配しないで」なんて言ってるけど…もし、悪い病気だったら?
早く病院に行かないと手遅れになったらどうするの!?


過剰に心配し始めた俺を心配してか、美奈子は…

「本当に大丈夫。悪い病気じゃないと思うの。生理も遅れてるから、もしかしたら…ね?」

って、恥ずかしそうに教えてくれた。

俺も理解できた…美奈子は妊娠してるのかもしれないって。


※ ※ ※ ※


慌てて、ネットで近くの産婦人科を検索したのが昨晩の出来事――


嬉しさと気恥ずかしさが入り混じってる…嬉しくてしかたない。
まだ膨らみのないお腹に負担がかからないようにそっと美奈子を抱きしめた。

「おめでとう」
「ふふ、ありがとう。琉夏くんも“おめでとう”」
「あっ…そっか、うん…ありがとう」

俺の頭を撫でてくれる美奈子の手の平から美奈子の温かさが流れ込んで来るような気がする。
心が温かくて、くすぐったい。

神様、ありがとう。

*
*
*


日に日に美奈子のお腹が目立ってきた。
事情を知らない人から見たら、ちょっと太ってるって思われちゃうのかな?


美奈子を悩ませてた悪阻の症状もなくなった。
よかった…病気じゃないとはいえ、辛そうな美奈子を見るのは辛かったから。

あと、美奈子の妊娠を知ってから、コウの心配性が悪化したみたい。
以前から何かとうちに来たり、電話掛けてきたりしてたけど…頻度が上がった。

美奈子の両親より心配してると思う。


「いいか、しっかり鉄分取れ。牛肉の赤身は鉄分豊富だからな…ほら出来たぞ!」

今日も仕事が休みだからと夕飯を作りに来た。
コウの作る食事はほぼ牛肉メニューだ。


食事が済むと美奈子は洗い物を始める。
その間、俺とコウで早くも赤ちゃんの名前を考えるのが最近のブーム。
男か女かは生まれてからの楽しみにしたいから先生には聞かない。だから、両方考えてるんだけど……


「おまえ…そりゃ冗談だろ?」
「コウこそセンスない!!」
「ったく…メンドクセーなぁ。じゃあ、読みをこうして、この漢字をこっちにして…どうだ?」
「…いい、これならいい!!」
「よし、候補帳どこやった?」

*
*
*


先日、ついに内側から赤ちゃんが美奈子のお腹を蹴ったんだ!!
俺は仕事に行ってたから帰ってきて、しばらく美奈子のお腹に張り付いてみた。

「パパだよ〜? ほら、来い! えいって蹴るんだ!!」

お腹を撫でながら、何度も赤ちゃんに話し掛けみたけど…無反応。

「全然反応ないね…寝ちゃったのかな?」
「う〜ん、今日はたまたまだったのかな? 蹴ったって言っても一回だけだったし。もう少ししたら、元気に動き回るようになるよ」

美奈子の言葉通りだった。
赤ちゃんはそれから二週間ほど経った頃から、よくお腹を蹴るようになった。

あまりに元気で、お腹の中から力強く蹴られる美奈子は少し痛いみたい。

羨ましいな……。
*
*
*


予定日まで、あと少し…。


名前も最終選考に入った。
男の子verと女の子verをいくつか用意したから、どっちが生まれても大丈夫!

産着とかその他のグッズも淡い水色とか黄色で揃えた。男の子でも女の子でも使えるタイプ。

予定日まで一ヶ月を切ると俺たちよりも、俺らの周りがソワソワし出いた。


コウが恒例になった夕飯作りに来た際に立派なチャイルドシートを片手に現れたから驚いた。


「わぁ、ありがとう!」
「スッゲー高そう…」
「おうよ、奮発したからな」

苦笑しながらも得意げなコウの笑顔は嬉しそうだ。
これまでも赤ちゃんの名前を一緒に考えてくれたり…自分の事のように喜んでくれる。


不二山とニーナからも祝いの品を貰ったり、一緒に食事に行ったりしてる。
高校時代に美奈子が柔道部のマネージャーだったから不二山とニーナとは今でも交流があるんだ。

カイチョーとセイちゃんからもメールが来た。
どちらも“俺にしっかりするように、美奈子を困らせないように”という内容だったのが気になったけど…。


美奈子のご両親がベビーカーを買ってくれて、俺の親もベビーベッドや沢山のおもちゃを買ってくれた。

すでに美奈子の入院の準備も整ってる。


俺たちの準備は万全だよ。

みんな、おまえに会えるのを楽しみにしてるんだ。
だから早く産まれておいで?


*
*
*



病室に行くと赤ちゃんが新生児室から美奈子が入院してる個室に移されてた。
まだ、どちらにも似てない俺と美奈子の子が赤ちゃん特有の姿勢で寝てる。

「今、おっぱい飲んで寝たとこなの」

そう教えてくれる美奈子の顔はすっかり母親の顔。

優しさと強さを兼ね備えた顔…懐かしいな。
記憶の奥に眠る、死んだ母さんとどこか似てる。もう記憶が曖昧だから、断言はできないけど……。


「琉夏くん?」

物思いに耽っていたら美奈子が心配そうに俺を見つめてた。

「どうかした?」
「ん? なんでもないよ。惜しかった…って思ってただけ」
「何が?」
「もう少し早く来てたら、美奈子のおっぱい見れたんだなぁ…って」
「もう、琉夏くん!!」
「ハハハ、冗談だよ。あんまり大きい声出すと起こしちゃうよ?」

我が子を指差せば、美奈子が「あっ」と言って口を抑えた。赤ちゃんはモゴモゴと口を動かしながら眠り続けてる。

俺と美奈子は視線を戻すと、お互い見交わして静かに笑う…。


「ねぇ、琉夏くん。この子の名前決まった? そろそろ名前で呼んであげたいんだけど…」
「うん」

そう言って名前を書いた紙を見せる。

「花凛…素敵な名前…」
「気に入った?」
「とっても!」
「じゃあ、決まりだ」

我が子に近付き、頭を撫でながら話し掛ける。


「おまえは今日から花凛だよ。
俺と美奈子の可愛い花凛…俺が守ってあげるからね?」


早く、親子三人でお家に帰りたいね。

俺と美奈子と花凛…三人の家。









〜あとがき〜


以前、琉夏バンで妊娠ネタのご意見を頂いたので、採用しちゃいました。


赤ちゃんは男女どちらでも読めるようにしましたので、お好きなように想像して下さい。
ちなみに里夏は女の子派です。
琉夏にはバンビそっくりな娘に親バカになって欲しい(笑)

出産経験ないので想像+ありきたり、間違ってる部分もありそうですが、そこはお約束のスルーでお願いします!!


里夏

[ TOP ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -