※入試前夜の続き



「あたし高校入ったらバイトするんだ」

「郵便局?」

「もちろん」


ニコニコと効果音が付きそうな位の笑顔を見せる、メル。

俺はこの笑顔に見せられたのか。


「それでね、」

「うん」

「夏休みと冬休みを楽しみにするんだ」

「…あ、暑中見舞いと年賀状か」

「うーん、それもそうだけど…」


くるくる周りながら歩くメル。

転びそう、危なっかしい。


「それ以外に何かあるの?」

「まぁ、秘密」


なんでわかんないかなー、と言う言葉が後から続く。

メルの歩調はくるくるからスキップへ。


「でも早く入学したいなー!」

「焦らさないでよ」


考えてみても中々浮かばない。

メルが悪戯に笑う。

ああなんか悔しいな。


「…俺の書いた葉書を一足先に読みたいとか?」「違うー」


ニヤニヤ、と太郎兄みたく笑う。

決して鰍兄みたいな腹黒いものではなく。


「わかんない」

「もうギブアップ?らしくないなー」


わざとらしくため息。

いつもならすぐに分かるのに。


「ヒントね、ハヤトも高校生だよ」

「当たり前じゃん」


更に難しくなった感じがする。

高校生、ねぇ。


「俺にバイクの免許取らせて2ケツで配達?」

「おしい!ハヤトが取るならあたしも免許取るもん!」

「教習所行ってすぐに、ヤダーって言いそう」

「あー酷い!ちゃんと出来るし、後期入試みたいに」


もうあれから一ヶ月。

短かったな。

何故かついて行かされた合格発表。

もちろん結果は合格。

俺のおかげ、ではない。

あと、卒業式にわんわん泣いたメルが懐かしい。

あげくには桜井先生に泣きついて「安西…助けて」なんて言わせるし。


「ハヤトー?」

「ごめん、卒業式のメルを思い出して」

「やめてよあたしの黒歴史」

「で、答えは?」

「え?」

「さっきの」

「あぁ、えーとね、ハヤトがキスしたら教えてあげる」

「どこでそんなの覚えたの」


彼女のお兄さんたちではないことは確か。

絶対に教えたりしないだろう。

と、なると


「若さんあたり?」

「えへー、そうだよ、なんで分かったの?」

「だって翔は初だし教えそうにないじゃん」

「あっひっどーい、今度ハヤトが言ってたって言ってやる」


そういえばはメルと翔は従兄弟だった、忘れてた。

ちょっと痛いなぁ。


そして、ちょっとした隙に、頬に口づける。


「えっあっ…」


みるみるうちに顔が真っ赤になるメル。

こっちだって少しは恥ずかしいのにさ。


「やれって言ったの誰だよ」

「だって本当にするとは思わなかったもん」

「はいはい、答えは?」

「そんなに気になるの?」



「一緒にバイト出来たらなって、募集…してるし」

「ばーか」

「何よ」

「絶対するに決まってんじゃん、そんな楽しみにしなくても」

「ひどい!」


春休み

桜はまだ咲きそうにない。



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