ノートや教科書が落ちる音で俺は目を覚ました。

いつの間にか寝てたみたいだ。



「もう嫌ーっ」

「メル…」



メルが暴れていた。

そう、まるでゴジラか何か…と言うほど出はないがボックスティッシュや日誌やらを手当たり次第に投げている。

おかげでど真ん中の席の周りには色んな教科のプリントが散らばってしまった。

夕日に照らされた明るい髪が教室で煌めく。



「あーもう、ハヤトなんで寝ちゃうのー?」

「昨日ずっと徹夜してた」

「え、なんで?」



ハヤトは前期で受かったのに、とメルが続ける。

そう、俺は前期で高校に受かった。

高校とは言えど、付属の高校だからそこまで受験という感じがない。

メルは後期。

そこまで良いと言える成績ではないからだ。

英語と体育が飛び抜けて良く、社会も出来る方だが、それ以外が残念なのだ。



「兄さんや姉さんに聞いてどんな問題が出るかまとめてて」

「…ほんとに?」

「嘘つく必要がないと思うんだけど」



鞄の中からキャンパスノートを出してメルに手渡した。

おかげで2時間しか寝てないというのに、という言葉は心の中にしまって。



「有難う!ハヤト!」



その一言のために俺は何でも出来る。



入試前夜





それから1時間必死にメルはノートの問題を解いている。

問題、ボールペンで書いておいてよかった。

ちなみにその間の俺は読書。

夏目漱石のこころだ。



「ハヤトー、この問題は?」

「どれ?」

「問38の括弧2!」



自分で作った問題、もちろん答えはしっかり頭の中にある。



「えっと1と2を連立方程式で解く」

「ちょっと待って…2を3倍したらマイナス12と12になるから」

「うん」



カリカリとメルが水色のシャーペンを動かす。ノートを覗き込んだら計算式で真っ黒になっていた。



「で、aが4になるから代入して…bが6?」

「そう、出来るじゃん」

「あー難しいー!」

「でも社会とか国語とか英語できるでしょ」



そう、この間の模試では社会と国語が満点近く、英語はまさかの満点を取っていたのだ。

担任の桜井先生にこっそり耳打ちされた「安西との猛特訓の成果?」という言葉を思い出す。

メルはやればできるのだ。

ただうまくやれないだけ。


「うわもう外真っ暗」


ふと上がる声に窓の先を見れば月がはっきり見えるほど暗くなっていた。

腕時計では6時20分。

あと10分で、下校のチャイムが鳴る。


「そろそろ帰ろうか、メル」

「待って、この一問だけ」

「分かった」


その間にさっきメルが放り投げてた物を片付けようか。







「雪降ってきた」


口から白い息を吐きながらハヤトが言う。


「受験終わったら、デート行こうか」

「賛成!」

「じゃあ最後の追い上げ頑張って」


明日、寒くなるかな。

頑張ろう。




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