奈落の底 | 1/1page 静かな夜に、静寂を破るひそやかで淫らな水音。 重なりうごめく二人の影。 「あッ……」 その二人が男同士で、しかも肉親であることは、誰にも知られていない。 「あっ……あんっ、……やめ……っ」 背後から楔で貫かれ、淫らな鳴き声で懇願する父。 「子、桓……」 「ではここでやめてしまいますか、父……いや、」 激しい攻め手を休める事なく、ニヤリと笑う息子。 「孟徳様」 親を凌辱し、悦楽を教え込み奈落へと引きずり堕とした。 子に犯され、背徳感と敗北感から悦楽に堕ちた。 普段は嫡子と君主であるというのに。夜になれば飼い主と娼婦と化す。 どちらも、許されざる罪を犯している。だから余計に溺れるのかもしれない。 「あぁっ……、んっ……ゃ」 敷布を掴み、淫らに腰を揺らす。激しい攻めに堕ち、厭らしく誘うその姿に普段の威厳はない。 「お気に召されましたか……?」 容赦なく楔で内壁を穿ち、平然と耳元で囁く曹丕。 「んッ……はぁ…あぁッ…悦い……」 ズブズブと音を立てて歪んだ欲望を容易く受け入れ、蕩けきって恍惚と呟く曹操。 「とんだ淫乱だ」 「あッ……その…淫乱がッ、んぅ……お前の…父親だ…っァ…情けなかろう?」 見下され、軽蔑されている己をさらにおとしめる。そうでもしなければ狂ってしまいそうだった。 「あぁ。……だが、だからこそ汚したくなる……」 「あんッ……しか……ッ……あぁぁぁッ」 深く強く楔が突き立てられる。為す術もなくあられもない声で鳴いた。 初めて親子で関係を持ったのはいつのことだったか。今や、身体が疼くからと曹操から誘うようにまでなっていた。 「私を憎まれるが良い……」 その目に何の感情も映さず、曹丕はぼそりと呟いた。 憎んでいる間は、曹操の頭の中は曹丕のことで一杯になる。歪んでいるかもしれないが、これが曹丕なりの独占欲なのだろう。 攻め手を休めてしまった曹丕の一言に、曹操は熱に浮された目で、ひどく冷静に言う。 「子建の事か……?」 「貴方は……私だけを見ていれば良いのだ……ッ」 寂しい。悔しい。愛しい。羨ましい。憎い。 一言では表せぬ感情の嵐。詩人だからこそ、言葉にならない。 荒ぶる感情を、曹操にぶつける。 「あッ、あッ、……も、……ゃ」 「何が嫌か……こんなに私を締め付けて……」 「あぁぁぁぁッ」 声を抑えることもせず、突き上げられれば素直に腰を跳ねさせる。 「貴方は、私だけのものだッ……」 「子、桓……しか……ッ……あぁぁぁぁんッ」 悩ましく声を上げて身体を弓のようにしならせ、欲望を放つ曹操を満足げに見つめる曹丕。 内壁が搾り取るかのようにうごめき、曹丕は大して堪えもせず欲望を解き放ち曹操の内部を白く汚した。 楔を引き抜き、ゆっくりと寝台に横になる。曹丕の動作を見て、曹操ものろのろとした動作でがくりと仰向けになり、疲労の色濃く溜息をついた。 「子桓」 掠れた声で、重々しく言う曹操。 「お前は何も気に病むな……。全ては、儂の罪だ」 「そのように強がって……私が引き起こした事。貴方に押し付けることはしない」 「結局、共に堕ちたという事か……」 自嘲気味な曹操を抱き寄せ、曹丕は笑う。曹操はされるがままに、曹丕の胸に身体を擦り寄せた。 「いつか見てみたいものよな、奈落の底を……」 「この現世こそが地獄、奈落の底。……見る必要はありますまい……?」 「ククッ、言いよるわ……」 いつしか雨が降り出していた。 FIN back |