奈落の底
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静かな夜に、静寂を破るひそやかで淫らな水音。
重なりうごめく二人の影。
「あッ……」
その二人が男同士で、しかも肉親であることは、誰にも知られていない。
「あっ……あんっ、……やめ……っ」
背後から楔で貫かれ、淫らな鳴き声で懇願する父。
「子、桓……」
「ではここでやめてしまいますか、父……いや、」
激しい攻め手を休める事なく、ニヤリと笑う息子。
「孟徳様」
親を凌辱し、悦楽を教え込み奈落へと引きずり堕とした。
子に犯され、背徳感と敗北感から悦楽に堕ちた。
普段は嫡子と君主であるというのに。夜になれば飼い主と娼婦と化す。
どちらも、許されざる罪を犯している。だから余計に溺れるのかもしれない。

「あぁっ……、んっ……ゃ」
敷布を掴み、淫らに腰を揺らす。激しい攻めに堕ち、厭らしく誘うその姿に普段の威厳はない。
「お気に召されましたか……?」
容赦なく楔で内壁を穿ち、平然と耳元で囁く曹丕。
「んッ……はぁ…あぁッ…悦い……」
ズブズブと音を立てて歪んだ欲望を容易く受け入れ、蕩けきって恍惚と呟く曹操。
「とんだ淫乱だ」
「あッ……その…淫乱がッ、んぅ……お前の…父親だ…っァ…情けなかろう?」
見下され、軽蔑されている己をさらにおとしめる。そうでもしなければ狂ってしまいそうだった。
「あぁ。……だが、だからこそ汚したくなる……」
「あんッ……しか……ッ……あぁぁぁッ」
深く強く楔が突き立てられる。為す術もなくあられもない声で鳴いた。
初めて親子で関係を持ったのはいつのことだったか。今や、身体が疼くからと曹操から誘うようにまでなっていた。

「私を憎まれるが良い……」
その目に何の感情も映さず、曹丕はぼそりと呟いた。
憎んでいる間は、曹操の頭の中は曹丕のことで一杯になる。歪んでいるかもしれないが、これが曹丕なりの独占欲なのだろう。
攻め手を休めてしまった曹丕の一言に、曹操は熱に浮された目で、ひどく冷静に言う。
「子建の事か……?」
「貴方は……私だけを見ていれば良いのだ……ッ」
寂しい。悔しい。愛しい。羨ましい。憎い。
一言では表せぬ感情の嵐。詩人だからこそ、言葉にならない。
荒ぶる感情を、曹操にぶつける。
「あッ、あッ、……も、……ゃ」
「何が嫌か……こんなに私を締め付けて……」
「あぁぁぁぁッ」
声を抑えることもせず、突き上げられれば素直に腰を跳ねさせる。
「貴方は、私だけのものだッ……」
「子、桓……しか……ッ……あぁぁぁぁんッ」
悩ましく声を上げて身体を弓のようにしならせ、欲望を放つ曹操を満足げに見つめる曹丕。
内壁が搾り取るかのようにうごめき、曹丕は大して堪えもせず欲望を解き放ち曹操の内部を白く汚した。
楔を引き抜き、ゆっくりと寝台に横になる。曹丕の動作を見て、曹操ものろのろとした動作でがくりと仰向けになり、疲労の色濃く溜息をついた。
「子桓」
掠れた声で、重々しく言う曹操。
「お前は何も気に病むな……。全ては、儂の罪だ」
「そのように強がって……私が引き起こした事。貴方に押し付けることはしない」
「結局、共に堕ちたという事か……」
自嘲気味な曹操を抱き寄せ、曹丕は笑う。曹操はされるがままに、曹丕の胸に身体を擦り寄せた。
「いつか見てみたいものよな、奈落の底を……」
「この現世こそが地獄、奈落の底。……見る必要はありますまい……?」
「ククッ、言いよるわ……」
いつしか雨が降り出していた。


FIN





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