微妙な関係
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呂布の暴威が過ぎ去り、打ち倒した三人の英雄が共同統治をするという前代未聞の時代に突入した今。
民の顔に笑顔が戻り、都市には明るい声が響いた。

あまりに平和すぎる。

戦の中のひりひりする緊張感に揉まれてきた者たちには、ぬるま湯の平和を味わうというのがあまりに非現実すぎて、なかなか受け入れられないでいた。



孫堅は、ふうと息を吐く。目の前に山積みにされた書簡。その高さに軽くめまいを覚える。重要なものや早く裁可がいるものは一部だが、なるべく早く片付けるに越したことはない。
伸びをして外を見ると、なにかがちらついたように見えた。
「ん……?」
いぶかしく思い、そちらを凝視する。ちらちら見えるのは、誰かの手だ。木の枝を持っている、木に擬態しているつもりか。……また小喬あたりが遊んでいるのだろう。
そう思っていたが、明らかにこの手は男のものだ。とすると一体誰が……
その手が、チョイチョイと動いた。孫堅に向かって手招きしている。あまりに怪しい。怪しすぎる。
見ないフリをして、孫堅はまた机に向かった。しばらく熱中していると、後ろに人の気配がした。
「酷い、酷いぞ孫堅」
その声に驚いて真後ろを見ると、寝台に寝転がって勝手に書簡を読んでいるのは……驚いたことに、曹操であった。
「曹操、お前、何でこんなところに」
「無視しおったな貴様……」
拗ねたように唇を尖らせ、書簡を読んでは投げ捨てる。このままでは床が書簡の海になりかねない。
「ふ、まさか儂がここにいるなど、誰も思うまい?」
「それはそうだろうが……」
完全に曹操のペースになりかけているのが面白くない孫堅は、とりあえず曹操の読んでいる書簡を取り上げた。
「なっ……返さぬか」
「もともとコレは俺の仕事だ」
ため息をつきながら、孫堅は床に散らばっている書簡を片付ける。
「して、何で来たんだ」
「理由は要るのか?」
くくっ、といかにも面白そうに曹操は笑う。その悪戯っぽい笑みに、孫堅もつられて笑った。
「あの夜が忘れられぬ」
「曹操、お前……」
その笑みが、幾分妖艶さを増してきたことに、孫堅は気づいた。
呂布を倒した戦勝の宴の後。酔った勢いで曹操を抱いた。あの乱世の奸雄と呼ばれる男が、従順になりよがり狂い、己を求めてくるその優越感。あの夜の熱がぶり返してくるような気分だった。
「奇遇だな、俺もお前をまた抱きたいと思っていたところだ」







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