肉まん談義
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諸葛誕が生徒会室の前を通りかかると、非常にイヤな空気を感じた。なんだろう。中からうんうんと唸る声がする気もする。
……いやしかし、勝手に開けるのはよくないだろう。でも何か起きていたらそれはそれで困る。
「あのー、誰か……?」
とりあえず、ノックをして様子を見てみることにした。すると、数秒のち、怒り心頭といった雰囲気の司馬師が生徒会室から出てきた。
「諸葛誕、いいところに来た」
「はぁ……」
手には白地に緑で印字されたコンビニの袋をさげている。司馬師のことだ、おそらく中身は彼の大好物の肉まんであろう。その中身をさぐり、ひょいと取り出した物に、諸葛誕は目を丸くした。
青い色に独特のフォルム、目と口。……これは。しかし肉まんのいい匂いがする。外見こそ食欲をそそらないが、目を瞑って食べれば案外美味しいのかもしれない。
「ス●イム、肉まん……ですか」
「ああ。昭が珍しいからと買ってきたが、私は認めんぞ」
……どうやら、これこそが司馬師の立腹の原因らしい。普段の完璧人間の、好物にたいする異様なほどのこだわりに、人間臭さを感じて思わず微笑してしまった。
「こんなに青くては食欲も湧かん。それにこんな顔をされては食べるのが可哀想になるではないか……わかっているのか、この企業は!」
そんなに嫌ならつっかえせばよかったろうに、と諸葛誕は思う。その後も、十分間ほど司馬師の文句は続いた。その間に、結局当の肉まんは冷めてしまった。
「やはり肉まんとは純白の皮に包まれているべきだ」
という結論に司馬師が達した頃には、肉まんで「スラ●ムが なかまになりたそうに こっちをみている」などと諸葛誕が遊んでいた。司馬師は手元にあったセロハンテープを思い切り投げつける。かん、と見事に頭に命中し、諸葛誕はよろめいた。
「諸葛誕!食べ物で遊ぶな!」
頭を抑えて呻く諸葛誕。肉まんを取り上げると、冷たい感触。すっかり冷めてしまっている。
「仕方ない、あとで購買に行って温めるか」
そういって肉まんを袋にしまう司馬師に、なんとなく嫌な予感がした。

案の定というかなんというか。
諸葛誕が司馬師の叫び声を聞いたのはそれからすぐあとのことであった。
そして、諸葛誕がふたたび生徒会室に入ると、がっくりと項垂れた司馬師が目の前にある袋をつんつんとつついていた。
「あのー、司馬師殿……?」
「諸葛誕か……。まぁ、これを見るがいい」
そうして司馬師が袋をあけると……そこには見るも無残な色をしたスラ●ム肉まんがあった。
「メラゾーマ……」
諸葛誕はつぶやいた。これはス●イム肉まんも司馬師も可哀想だ。帰りにあまりこういうことは好きではないが買い食いでもしようか、などと考えていると、司馬師は申し訳なさそうに言う。
「半分ほど食ってくれ」
すっかり食欲の失せてしまった司馬師に苦笑する。
諸葛誕は司馬師に密かに想いを寄せていた。だからだろうか。気持ち悪いを通り越してもはや可哀想な肉まんの半分こですら、嬉しく思う。
味は確かに肉まんではなくなってしまっていたが、諸葛誕にとっては貴重な、思い出の味になったのだった。





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