言の葉に表して
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「郭淮ーーー!!」
叫びながら走ってくる夏侯覇に。郭淮はため息をつく。本当に学ばない。いや、鎧の音がしないだけ幾分か進歩したのだろうか。
思ったら一直線。瓜坊のような猪突猛進さは、確かに夏侯覇の長所であり、短所である。
振り返って迎えてやることにした。勢いよく扉が開き、普段着で現れた夏侯覇は飛びつくまえに一時停止。おや、と郭淮が首を傾げると夏侯覇はどうだ、とでも言わんばかりに隠していた手をひょい、と目の前に出す。その手には大きな花があった。おそらく、枝ごと手折ってきたのだろう。
赤い花弁が美しい。確か、これは椿という花であったはずだ。
「見事な花ですね」
「だろ?」
我がことを褒められたかのように夏侯覇は嬉しそうに笑った。そして郭淮にそれを差し出す。もともと、そのつもりでとってきたのか。夏侯覇が椿を手折るところを想像して、郭淮は思わず微笑してしまった。
両手で優しく椿を手に取ると、小刀で手折った部分を整えてやる。そして、目の前にある暫く空だった花器にそれを飾った。あとで水を入れてやらねばならないだろう。
「郭淮、」
「何です?」
「俺のこと、子供扱いしないでくれよな」
恩人の息子。郭淮も、最初こそそう思っていた。確かに、年の差もあり、子供扱いしている節は自覚している。
「わたくしは、あなたを認めているつもりですよ」
夏侯覇はそのうち、好意を恋慕に変えた。初めてそう告白してきた時、本当に驚いた記憶がある。
しかし、それからいくばくも経たないうちに、郭淮の目は、夏侯覇の男らしいところだとか、大人びたところにいくようになった。……要は、郭淮も夏侯覇に惚れたのである。
「絶対子供だと思ってんだろ」
「仕方ないでしょう、わたくしとあなたの歳を考えてみても……」
「ほら、やっぱり子供だと思ってんじゃんか!」
ぷー、と効果音が聞こえそうなくらいに膨れる夏侯覇。そんなところが子供っぽいと突っ込めばさらに拗ねるに違いないと踏んだ郭淮はうっと詰まり、指摘するのを諦めた。
「なぁ、郭淮」
拗ねたまま、身長差もあり上目遣いで郭淮を見てくる夏侯覇。そのさまはまさに大型犬。
「俺のこと、好きって言って?」
「……は?」
流石に郭淮もこの展開は予想外だったらしい。あんぐりと口を開けて穴が空くほど夏侯覇を見つめる。
「だって、俺ばっか好きだって言うのも不公平っしょ?」
「別にわたくしは言って欲しいなどと言った覚えはありませんが」
耳が熱いのは、異様に緊張しているのは。確かに夏侯覇のせいだ。だが、それを言ってしまったら負けだと思う。しれっと言ってのけながら、郭淮は既に敗北感を感じていた。
「耳、赤いけど……これって、そういう意味で捉えてもいいのか?」
「ばっ、ちょっ、しっ、知りませんよ!」
むきになってあわてて言った言葉で郭淮はさらに自分が墓穴を掘ったことを悟る。夏侯覇は先程の不機嫌はどこへやら、にやにやへらへらと嬉しそうに笑った。
「へへっ、んな照れんなよ」
「……全く、大人をからかうもんじゃありません」
「からかってねぇって!それと!子供扱いすんなよ!」
抗議の声を笑って受け流し、郭淮は夏侯覇の唇におのれのそれを寄せた。途端丸く大きく見開かれる夏侯覇の瞳。
その反応が可愛らしく、郭淮は目を細める。夏侯覇の手が郭淮の頬に当てられたかと思った次の瞬間。
夏侯覇は性急に郭淮の唇を、口内を貪っていた。呼吸を奪われてしまうのではないかと思うほどにそれは激しく、触れたそこから融けてしまうかのように熱い。夏侯覇の性格そのままの猪突猛進な、しかし情熱的な口付け。図らずとも息が上がり、長い接吻から解放された頃には、郭淮はなんども咳き込んでいた。
「ゲホッ、ゴホッ、……がっつきすぎですよ、夏侯覇殿」
「あ……その、悪い。悪かった」
しゅんと項垂れるさまにはやはり耳と尻尾が見える。ふふ、と密やかに笑い、郭淮はそっと、夏侯覇をその細い腕で包み込んだ。そして、諭すように優しく、耳元で囁く。
「……好きですよ、他の誰でもなく、あなたが」



fin

砂糖山盛りあまーい(ス●ードワ●ン風←古いよ)
オリジナルが暗い分、こういう甘いのを書くと妙に安心する。
椿はこのころに日本に咲いてるああいう椿があったのかがようわかりませんでした。
まぁそのあたりは目を瞑っていただけるとうれしいっす。



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