故郷へ帰る汽車の中はほとんど人がいませんでした。
平日に田舎へ行くものはよほどの物好きで無い限りいないのでしょう。
僕はその物好きの一人なのだと感じ、少しだけ笑みを浮かべました。
今日はとてもいい天気です。
車窓からの風は気持ち良く、春の日差しとあいまって僕はいつしか心地好い眠りへと落ちていました。
そして、目覚めた時に僕の目の前にはお客さんが一人座っていました。
その人物は、とても美しい人間でした。
抜けるように白い肌、蜂蜜色の柔らかそうな髪、そして紅玉のような瞳。
まるでこの世の人間では無いような容姿です。
何故、ほかの空いている席に座らずに、僕の所へ座ったのでしょうか。
ですが僕の興味を最も引いたのは、その膝の上に乗せた匣です。
目の前の彼はさっきからその匣にしきりに話し掛け続けています。
そしてその匣から、声が聞こえます。
「 」
たしかに聞こえるのですが、眠いせいでしょうか。
はっきりとは聞き取れません。
「聴こえましたか?」
彼が言いました。
落ち着いた。
耳に心地好い声でした。
僕は彼を黙って見つめていました。
まだ、覚醒しきれていなかったからです。
「誰にも言わないで下さいね」
そう言うと、彼は匣の蓋を開け、僕の方へ向けて中身を見せました。
匣の中には、黒い髪の青年がいました。
人形でしょうか。
黒耀石のような瞳が僕を見つめています。
なんとなく、それに向けて笑うと、匣の青年も口角をあげ、
「 」
と言いました。
ああ、生きているのだな。
そう思いました。
その声はやはり、上手く聞き取れませんでした。
しばらくして彼等は降りていきました。
僕は彼等をとても美しく、そしてうらやましく感じました。
匣の中
ああ、美しい。
あの世界観が好きでやらかしました。