○○○の場合シリーズ | ナノ

 クルーオゥ・フォルターの場合

「……ここがアドリビトムですか」

目の前の巨大な船を見て、そう呟いた。

「“自由”ねぇ…大層なお名前で」

聞いた話だと大抵の依頼をこなすという事だが…
…中を見るかぎり子供と青年しかいない。

「ほう…魔導書の在り処を知りたいとおっしゃるのですか?えっと、それはどのような?」

しかも目の前の…船長と名乗るのはまだ幼い少女だ。
…大丈夫でしょうかこのギルド。
『魔術書を探してほしい。ただし何処にあるのかわからない』なんて依頼、私ならまず受けませんし。

「どのような、とおっしゃいますと?」

「あの〜装丁とか…作者とか…」

「わかりません」

「は?」

やはり驚きますか。

「ただの民間伝承にでる本ですのであるのかどうか…」

そう言うと少女はあからさまに眉をひそめた。

「…我々をからかっているのですか?」

「滅相もない。私は本気です」

ここも駄目か…使えない。

「そう…ですか。無理なお願いをしてしまい申し訳ありません」

「いえ」

だが…

「こちらは依頼されたらその依頼を完璧にこなす。そう聞いていたのですが…見込み違いでした。残念です…」

少々大袈裟に失望してみせると少女は身を乗り出した。

「な…!なんですって!?」

ああ、乗った。

「そうおっしゃるのならば、おじいさまの誇りにかけて見つけてみせますとも!」

実に単純だ。



「――どうかしましたか?」

背後から聞こえた涼やかな声に振り返ると軍人がいた。
特徴的な青の軍服…グランマニエの将校か。
軍人にしては随分と綺麗な容姿をしている。軍師なのかもしれない。
線が細くて…温和そうで……しかし一筋縄ではいかないタイプ。
嫌いじゃない。
むしろ好みだ…人間離れした紅い目が特に…
…赤目?
グランマニエの赤目の将校?
まさか…

「ああ、ジェイドさん。調度よかった!この方の依「すみません…もしかしてカーティス博士では?」

少女の台詞を強引に遮り、頭に浮かんだ事を確かめる。

「おや?私をご存知で?」

そう言ってにこやかに笑うカーティス博士…
むしろ研究者で知らない人間の方が少ないのでは無いだろうか。
こんな所で会えるなんて…!

「ええもちろん。貴方様の書かれた著書、全て興味深く拝見させていただきました」

「ほう…ところで貴方は?」

ああああ!
カーティス博士と話してる!
大丈夫か、私!
言葉おかしくないですよね?

「ああ、申し遅れました。私はクルーオゥ・フォルター。魔術を研究している者です」

「フォルター…もしや『古代魔術理論』を書かれたフォルター博士では?」

読まれてた、のか…
ああどうしよう。
かなり嬉しいかもしれない…!

「読んで下さったのですか?いや…稚拙な物でお恥ずかしい。それに博士なんて…おこがましいです」

「いえいえ、大変興味深く拝見しました」

興味深く!?
読んでくださってると知ってたらもっとこう…丁寧に書いたのに!

「カーティス博士、お会いできて光栄です」

「こちらこそ。お目にかかれて光栄ですよ」

カーティス博士!以外とフレンドリーなんですね!

よし、落ち着こう。
当初の目的を思い出せ…
……ああ、そうだ。忘れていた。
こんな噂があった。

『カーティス博士は死人をも生き返らせる』

事実だろうが関係ない。
今まで以上に興味が湧いた。
その涼しげな顔以外がみたい。

それに…このギルド子供が大半の癖に軍人まで引っ張り込むとは…
…面白そうだ。

「…船長。依頼を取下げます」

「へ…?」

少女に向き直り、そう告げた。

「いいのですか?」

「ええ…他に興味のある事が出来ました」

その為には…

「私を是非ギルドの一員にしていただけませんか?」

突然の私の発言に少女は一瞬目を白黒させ、驚いたように言った。

「雑用もこなしてもらう事になりますよ?」

「構いませんよ。なんでもしましょう」

この半生、生きて来た事に比べれば雑用程度、問題無い。

「まぁ…手下が増えるのは大歓迎です!許可しましょう!」

「感謝します」

自分でも口角が上がるのがわかった。
…さて、ジェイド・カーティス。
貴方の知識、拝見しましょう。



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好きなタイプはプライドの高い人と賢い人です。





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