pkmn | ナノ



状況が掴めないというのはよくある話だが、俺もここまで状況が掴めないのは始めてだった。幾ら考えてみても唸っても腕を組んでも状況なんてそう簡単に掴めるものではないらしい。俺はその状況を作っている二人にコーヒーの入ったマグカップを渡しながら口を開いた。

「うん。でさあ、何でいんの」
「息抜き、と思って散歩していたら偶然レッドを見つけてね」

俺の問いに答えたのは現リーグチャンピオン。ぶっちゃけ俺とレッドに負けた情けないにも程がある大人なわけだが。ワタルは俺が渡したコーヒーの入ったマグカップを少し揺らして頂くよ、と一言。未だにまともな答えを貰っていない俺はコーヒーを飲もうともしないレッドに続きを促す。視線をマグカップに落とし、淡々と言葉を紡いだ。

「…おれ、傷薬買いに行ったでしょ。そしたらワタルと会って、トキワジムまで送ってくれるって言うから送ってもらった」
「へえ。それはどうも」

ワタルを少しだけ見て上辺だけの礼を言うと当の本人は空いている手で気にしなくていいよ、と笑いながら振った。ほう、皮肉なんて通じないのか。再びマグカップに口を付けてコーヒーを一気に喉に下らせる。そしてにっこりと俺に笑いかけて君も元気そうで良かったよ、と言った。真面目に働いてるみたいだしね、と付け足された言葉に俺は当たり前だろ、と返す。それもそうか、と言いながらソファーから立ち上がったワタルは俺にマグカップを渡し、肩を叩いた。

「ご馳走様。美味しかったよ。さて、俺はそろそろ戻るとするかな」
「あ…。えっと、送ってくれてありがとう」

気にする事はないよ、とレッドの頭を撫でてワタルは再び笑った。じゃあね、と俺に向けて手を挙げたワタルに対して何もしてないだろうな、と聞くとさてどうかな、との答え。何だよそれ。問い詰めようとしても時既に遅し。カイリューの羽が暴風を巻き起こしていた。嵐のように去って行ったワタルを見送った後、レッドがこれ、苦すぎて飲めないと今更にマグカップを俺に渡す。渡した時に熱かったそれは人間の気持ちが冷めたかのような冷たさだった。

(弱い僕は安になる)


- ナノ -