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「なにこれ」

 抑揚のない声でそう言葉を落とされればレッドの肩が小さく震えた。目の前の緑を見つめて、でも答えなんて返せない。
 しびれを切らしたかのように彼の指先は頬のラインから首におりて鎖骨を這う。そこにぽつんと咲いている、すでに赤黒く変色したそれを見据えたグリーンはきれいに微笑んでいた。
 ああ、お願いだからその顔はやめてくれ。レッドが唇を噛みしめるとそこからはじわりじわりと赤がにじんだ。

「バカ、お前何やってんだよ」

「綺麗なんだから傷つけんじゃねぇ」と顔をしかめると、グリーンは壊れ物を扱うみたいに優しく丁寧に赤をなめとる。さらにはうまいだなんて舌なめずりまでして、まるで何かの動物みたいだった。
 おいしくないと反論しても「いや、うまいよお前のだもん」と彼は嬉しそうにまた唇をむさぼるのだ。

「……くすぐったい」
「で、レッド。これ、なーんだ」

 鎖骨のしるしに爪を立てて、「俺のじゃないよな」と耳元でそう囁かれれば、ドクリ、心臓が脈打つ。まばたきすら忘れていた。

「誰につけられた?」
「……そんなんじゃ、ない」
「まさか、虫に刺された……なんてそんなみえすいた嘘で誤魔化せるとは思ってないよな」
「……っ」
「誰?」

 グッと爪が食い込んで、鈍い痛みがじわじわ広がった。言うまでやめない、と言いたげに力はどんどん強くなっていって、それでも皮膚を裂かない程度に加減はされている。
 どうせなら、一思いに切り裂いてくれた方が楽なんじゃないかとさえ思う。
 何かを見透かすように細められた緑のそれにレッドの心臓はよりいっそう大きく跳ねて、嫌な汗が頬を伝った。
 どうしても、言えない。言えるわけがない。

「なぁ、誰にやられたんだよ」
「……ごめん、グリーン」
「言えないのか、それとも俺の早とちり?」
「ごめん」

 痛みに顔をしかめたままそう言えば聞こえてきたのはため息で、視界は無機質な地面を映し出している。とても彼の顔を見る勇気なんてレッドにはなかった。
 呆れてるかもしれない。いや、もしかしたら怒ってるかもしれない。憶測ばかりが浮かんでは消えて、グリーンがどんな顔をしているかもわからない。

「グリーン……」
「レッド、俺のこと嫌いになったのか」
「違っ」
「ほんと、に?」
「俺が好きなの、グリーンだけだから」

 頷いてどうにか言葉を絞り出すとグリーンは満足したのか「よかった」なんて爪を離してまた鎖骨に舌を這わせた。わざとらしい音までして痺れるような甘い痛みがレッドを襲ったから、そこでようやくグリーンの顔を見ると彼は愉快そうにのどを鳴らしている。

「グリー、ン……」
「お前は俺のだから」

 新しいそのしるしが指になぞられて、気分が悪い。
 目を伏せてレッドが唇を噛みしめれば、グリーンの笑い声が聞こえた。

「……何?」
「今度は気をつけろよ、口」

 言葉と共にまぶたにはやわらかい感触がして、ああ、キスされてるんだなんてそう思った時にはもう遅くて、気づいたらレッドは脳裏に映ったその金色の鋭い視線に捕まっていた。

『レッドさん』

 口元を歪めたそれはさも満足そうに言葉を落としながら、逃がさないように牙を剥けて爪を立てて、決して離してはくれないのだ。

『あんたは俺のものですから』

 忘れるなとそう言った彼はいつでも金色を輝かせて息を殺して闇に潜んでいる。さながら獲物を狙う獣のように。
 レッドはゆっくりとまぶたを持ち上げた。ドクリ、心臓がうるさい。

「誰のこと考えてんの?」
「……グリーンの、こと」

 嘘吐き。頭の中で金色がニヤリと笑ったような気がした。




091220


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