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グリーンが記憶喪失。


「グリーン、俺を殺して」
グリーンは俺を見て誰?、と言った。俺はグリーンに覚えていてもらわなきゃ存在の意味がないどうでもいい人間だから殺して。とか言ってみてもやっぱりグリーンはグリーンで、記憶がなくても優しい人間だった。苦笑いを浮かべながら困った顔をして自己紹介からはじめようぜ、と言った。
「はじめまして。それと久し振り。俺は前のグリーンの恋人のレッドです」
「俺の、恋人?だっておまえ男じゃん」
「そんな男の俺を前のグリーンは好きになったんだよ。俺は今でも好きだよ大好き」
「うん?え、どういう事だ?」
突拍子もない事実の告白と、俺の告白に戸惑っているように見えた。だけど俺は至って真面目だ。ありがとう…?、と首を傾けたグリーンが心配だ。こんなので俺を殺す事が出来るのだろうか。前のグリーンより幾分か口調が優しくなったように思える。グリーンは、そんなのじゃない。今のグリーンに愛されても嬉しくない。お医者さんは記憶が戻る事はないかもしれないって言っていたから俺は生きている意味なんてないんだ。後ろ手に隠し持っていたナイフをグリーンの目の前に出すと、とても驚いて冗談だろ?、と苦笑いの顔のまま固まった。
「冗談じゃないよ、殺して。早く」
「レッド…って言ったっけ?おまえは前の俺が好きなのか?」
「そう、前の君が好き。少し意地悪な君が好き。俺の事を覚えていない、俺の事が好きじゃない、俺に変に優しい君は好きじゃない」
「じゃあ、俺を殺せばいいだろ。前の俺が好きなら」
「俺は好きな人を殺したくはないんだよ。グリーンの綺麗なその顔に傷をつけるなんて事、出来ない。そんなの信じられない。グリーンはグリーンじゃないけど、グリーンなんだ」
少し笑いながら一思いに殺して、と言えばグリーンは眉間に皺を寄せながら言った。殺したら記憶が戻った時、俺が後悔するんだよ、と。
「気にしないで。ただ心臓に刺せばいいだけなんだ。簡単でしょ?」
そ、とグリーンの手に触れてナイフを持たせる。勿論刃は俺の方に向けて。にこり、と笑えばグリーンの息をのむ音が聞こえた。俺、頑張って思い出すから。そう言ったグリーンに俺は首を振って言う。これはね、俺の陰謀なんだ。男の俺が男のグリーンに告白する自体異様で、それに好きだ、と言ってきた幼馴染を自分の意志でないにせよ殺す事による罪悪感。それで俺の存在をグリーンが忘れないようにするっていう俺の自己満足、且つ気味の悪い陰謀なんだよ、と言い切るとグリーンは目を見開いて苦笑いした。
「…何となく、分かった」
「グリーンはやっぱり優しいね。そんなグリーンと付き合って色んな関係を持てたなんて俺、幸せだよ。」
「あーあ。俺、忘れられないな」
「嬉しい、よ。ねえグリーン。記憶が戻っても自分を責めないで。確かに俺はグリーンのせいで死にたくなったけど、それはグリーンが好きだから」
ばーか。泣くなよ、と笑って言ってキスをしてくれたグリーンは俺の知ってるグリーンだった気がする。じゃあな、と頭を撫でてくれた大きな暖かい手は前のグリーンのものと同じだった。優しすぎて、俺が手に持たせた鈍く光る凶器とグリーンが不釣り合いすぎて、俺泣きそうだよ。俺が死んだあと、記憶が戻ってくれると嬉しいな。堂々と、俺とレッドは付き合ってました、って言って欲しいな。ずっと一緒に、いたかった。
生まれ変われるなら女の子に生まれたいな、なんて。

(犯者にするつもりはないのです)