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あいつは横たわっていた。
相棒のピカチュウを抱いて少しだけ悲しそうな、でも嬉しそうな表情を浮かべて。季節に関係なく振り続ける雪の白があいつとピカチュウを覆っていた。こんな寒いとこで何してんだよおまえ、って最初の頃は言っていた記憶がある。今はもう諦めたけど。あいつの方へ向かう度、積もった雪を踏みつける音だけが響いて何だか寂しい。

「よお、レッド」

左手を挙げて挨拶すると、レッドはゆっくりと起き上がった。少し積もっていた雪が落ちる。

「負けたって?」
「……まけた」
「そっか。負けたんだ」

俺の問いに頷きながらピカチュウに積もっていた雪を手で払った。ピ、と鳴きながら頭を振る。その様子を見ているレッドの表情はとても穏やかだ。

「なら、帰る理由出来たじゃねーか」
「………」
「帰ろう。おまえの帰りを待ってる人たちがいるんだからさ」

こいつのために持ってきておいたマフラーを差し出すと、素直にそれを受け取る。帰る、と言いながらピカチュウをボールの中に戻してマフラーを巻いた。何だかそれがたどたどしかったもんだからうっかり笑ってしまう。そんな俺を気にする事なくレッドは立ちあがり、俺の存在がなかったかのように一人で歩きだす。

「…レッド」
「………」
「レッド!」
「…、」

一人で勝手に帰りだすレッドを追って、腕を掴んだ。細くて力を込めればすぐにでも折れてしまいそうなくらい脆い。俯いて、少し肩を震わせていた。泣いているんだなあって思うといたたまれなくて、つい手が動いた。今までこいつが俺の前で泣いた事は一度もない。それは多分俺に見せたくないから、だと勝手に解釈している。意外と強がりなレッドのプライドを崩さないために俺は帽子を深くかぶらせた。嗚咽が漏れてるけど気にしない。不意にありがとう、と聞こえたけど何も聞こえない振りをしてレッドの手を握り、歩く。
せめてシロガネ山から出るまでには泣きやんでくれよな。じゃないと俺がからかうハメになんだろ。

(流れるものは雪け水)


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