pkmn | ナノ
何も見えない。目を開いたその瞬間から何も見えなかった。自分の手を見ようとしてもそれは目に入ってこない。それはまるで目を瞑っているかのように感じさせる。何だ、これ。気持ち悪い。誰か助けて、プライドとかそんなものを捨てて言葉にしたのに音は自分にさえも聞こえなかった。いやだ。嫌だいやだ嫌だ。たすけて、助けて。グリーン、助けて!聞こえない自分の声に泣きそうになる。日常においてずっと我慢して我慢して、耐えてきたものが溢れて、嗚咽さえも聞こえなかった。自分がここに存在しているのかさえも疑う。ピカチュウ、どこ?ねえ、グリーン。いつもみたいに俺のところに来て。おまえさっさと帰ってこいよ、って言って。顔を手で覆うと水滴がついた。見えたわけじゃないけど、感覚で分かる。ぽた、ぽた。上からも降って来た。誰か、泣いているの?何が悲しいの?ねえ、一緒に元の世界に戻ろう。上に手を伸ばすと少しの光が見えた。帰りたい。帰りたい!光が広がる。
「レッド!」
「!……あ」
色が見える。自分の手も、何もかも。そっか。あの水滴ってグリーンのものだったんだね。戻って来た。
「…俺、どうしたの」
「倒れたんだ馬鹿!だからあれほど帰ってこいって言ったのに!」
「俺、一応病人だよ」
「……馬鹿」
横を見ると心配そうな、でも嬉しそうな顔をしたピカチュウ。有り難う、と言って頭を撫でてあげると耳を垂れて喜んだ。
「心配した」
「…ごめん」
ぎゅうう、っていう感じで抱き締められる。ちょっと苦しい。それでも凄く心配してくれたんだなって考えると本当に嬉しくて優しく手を回した。
「グリーン、キスして」
「…おまえ、ほんっと突拍子もねーな」
苦笑いだけど笑ってくれた。グリーンはずっと笑っていてくれないと俺が困る。唯一の世界だから。グリーンが口付けてくれると隣にいたピカチュウが恥ずかしそうに鳴いたものだから幸せってものを感じた。グリーンやピカチュウ、皆がいれば二度と暗闇に落ちない。だからずっといて。俺が最強じゃなくなっても優しい皆は笑って受け入れてくれるんだ。
(闇にも出口はあった)