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赤→一人称が僕。冒険途中設定。…かもしれない。


ガトーショコラ色のベトベトしたものを口から吐き出すと、それは重力に従って地面に落ちた。べちゃ。気持ち悪い音が僕の耳に届いてそれがいつまでも反響した。ああ、喉が痛い。それが血だと気付くまでにはそんなに時間はかからなかったけれど自分の身体に何がおこっているのか、なんて事は何時間経っても気付けないんだろうね。痛む喉を手で押さえると、四つん這いになって下を向いている僕の上から嘲笑う声が聞こえた。顔を確認するのも億劫で、靴だけを見た。第一僕は声だけですぐ分かる。視界は真っ赤になったり深緑になったり、取り敢えず忙しい。

「…何か、僕に用?」
「べっつに。笑いにきてやっただけ」
「……グリーンは本当に人が悪いね」
「うるせ−」

嘲笑じゃなくて純粋な笑い声が聞こえてきた。おまえ格好わりー、ってグリーンがケタケタ笑いながら言うから僕は小さく知ってる、って言った。僕も笑いたいんだけどいつも笑っていないせいか上手く笑えない。そして痛んでる喉がそれを拒む。わらえ、ない。僕は笑うことを、許されない。それは僕がこの世に生を持って形作られた時から。何で今まで気付かなかったんだろう。僕が笑わないのはその優しい行為を許されていないからだ。僕には優しさなんて必要ない。ううん、欲しい。優しさが欲しい。許されていないだけなんだ。本当は欲しいよ。

「何泣いてんだよ」
「…ごめん」
「謝る必要ねーだろ。…痛い、のか?それとも気持ち悪い?」

ねえ、グリーン。僕に優しくしないで。僕は優しさを受けちゃいけない人間なんだよ。その事を脳だけが認識して、無意識に僕は血を吐いたんだ。でもね、やっと気付けたんだ。脳だけじゃなくて僕自身が気付いた。僕自身が、唯一の優しい存在は僕自身だけでいいって事なんだ。

「…血の味するかもしれないけどさ、キスして」
「キスなんかでおまえが救われるんだったらいいけど」
「僕に優しさは必要ない」
「あー、もう。ぐだぐだ言ってねーで顔あげやがれ!」

僕の頬にグリーンの手が添えられて強制的に顔を上に向けられた。喉が凄く痛い。ちゅー、って可愛い音が鳴って僕とグリーンの唇が触れたんだって認識させてくれた。グリーン、もっとちょうだい。グリーンが僕自身になってくれれば僕は他の人の優しさを僕で感じる事ができる。グリーン、僕は君がいないと生きていけないんだ。だからグリーンも僕がいないと生きていけないくらい僕に依存して。優しさを与えて。僕の一部になって。僕がグリーンの一部になる事を許されたら自分から望んで同化するけど、生憎僕はそれを許されていない。僕を救うためだと思ってグリーン、僕と一緒になってください。グリーンは僕が好きでしょ?僕もね、グリーンがだいすきだよ。他の人の優しさはいらない。僕はグリーンの優しさだけを貰えればそれでいい。だから僕は天に祈るよ。グリーンの優しさを受ける事が出来る権利をくださいって。グリーン、おねがい。僕をあいして。

(優しさがしい)

それを罪だと言うのならば誰が優しさを貰えようか。


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