pkmn | ナノ

緑赤20歳くらい設定。


その日のグリーンは様子が変だった。笑っているはずなのに本当の笑いじゃない気がした。横目でグリーンの表情を見れば苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ねえ、何があったの。人との会話が得意じゃない俺はそんな簡単な事も聞けなかった。それを言っていたら何か変わっていただろうか。

「…俺さ、結婚するんだ」

告げられたのはグリーンの様子が変だった一週間後くらいだ。何だよ、それ。結婚ってなんだよ。俺たちってそういう関係だったじゃないか。そんな事聞かされるくらいだったら何も聞かされないでグリーンがいなくなった方がマシだよ。あまりにもショックで泣いた。20も過ぎた大人が、情けない。小さい頃からずっと一緒だった。それは今の今でも変わらない。それが、これから先から変わろうとしている。何で結婚するの。

「仕方なかったんだ。ごめんな」

苦笑いをしてグリーンはいつも通りに俺の頬にキスを落とした。グリーンが結婚すれば必然的にこういう事も出来なくなる。嫌だ。そんなの、嫌だ。グリーンは昔から俺だけのものなんだ。俺もグリーンだけのもの。認めない認めたくない。グリーンが誰かのものになるなんて、俺だけのものじゃなくなるなんて。不意に掌に痛みを感じた。結んでいた手を開いてみると俺の爪が掌を傷つけていた。力を込めたつもりは無かったのに。血が指を伝って下に落ちていく様を見ると酷く滑稽な気持ちになる。自分だけが子供のような気がして死にたくなった。そう考えているとグリーンが慌てて俺の掌を見る。心配してくれるの。ありがとう、昔からグリーンは優しいね。

「おまえっ、何やってんだよ!」
「……ごめん」
「…結婚したって会えなくなるわけじゃないだろ」
「きっとグリーンの相手の人、許してくれない」
「権利は俺にある。友達だって言っとけば別に大丈夫だ」

生温くてザラザラしたものが掌に這う。前、グリーンがこういう事をするのは俺だけだと言っていた。優越感。

「愛してるだとか、好きだとか、おまえにしか言えない」
「…うん」
「俺の一番はおまえだけなんだよ、レッド」

抱き締められて、また泣きそうになる。そう、グリーンは結婚しても俺だけのものなんだよね。大丈夫、何も心配する事なんてない。嬉しくなって背中に回した腕に力を込めると、小さく嗚咽が聞こえてきた。表だけで結婚したって、心が籠ってなければ意味がない。相手の人、可哀想だな。グリーンの想いは俺にあるんだから。誰も邪魔なんて出来ない。

(ずっとにいるからね)


- ナノ -